アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)Amazonオールタイム・ベスト小説100の紹介の2回目。今回は「アルケミスト 夢を旅した少年」を紹介する。前回はSFをご紹介したので、少々取っ付きにくい方もいらっしゃるかもしれない。何しろ文体がカタいので、暫く読んで世界に没入するまでに時間がかかる。

その点、今回ご紹介する「アルケミスト 夢を旅した少年」は、かなり読みやすい。薄い本なので、読むのが早い方なら1日、2日で読んでしまうことができるだろう。

 

「アルケミスト」というのは、「錬金術士」のことである。ただし、ファンタジー小説ではない。これはれっきとした自己啓発書である。

Amazonのレビューを見ると、「感動した」などのレビューが多いが、この本は日常に忙殺される人々に、「どうしたらより良く人生を生きることができるか」というテーマを考えさせるものである。

したがって、「今、仕事はうまく行っているが、何となくモヤモヤする」であるとか、「毎日がつまらない」とか、あるいは「自分は恵まれていない」といった感覚を持っている人にはしっくり来るかもしれない。

 

通常、「自己啓発書」というと、道徳的な話を上から目線で語る著者が多いが、この本はそうではない。

全編に渡り、ある羊飼いの少年が旅をすることの描写である。

 

少年は「羊飼い」をしていた。少年はある夢を見る。その夢は「ピラミッドへ行き、宝を見つける」というものだったが、ジプシーや、老人のアドバイスを受け、「本当に自分がやりたいことは何か」ということを自問自答し、少年は旅に出る。

旅に出るために自分の大切な羊を差し出したり、騙されて無一文になり途方に暮れたりと、様々な出来事が起こるが、少年はその「運命」を受け入れながら、多くのことを学び、成長する。

 

実はこの本で面白いのは、旅そのものではない。旅の描写は破天荒なものでも、大いなる謎があるわけでもない。いろいろな出来事に対する少年の自問自答、それに対する登場人物のアドバイスが面白いのである。

 

いくつか挙げてみる。

少年は聞く。「世界最大の嘘ってなんですか?」

老人は答える。「人は人生のある時点で、自分に起こってくることをコントロールできなくなり、宿命によって人生を支配されてしまう、ということだ」

 

少年が、「みんななぜ自分がやりたいと思うことをしないのですか?」と聞くと、老人は

「結局、人は自分の運命よりも、他人が羊飼いやパン屋をどう思うかという方が、もっと大切になってしまうのだ」

 

少年が、老人へアドバイスを受ける対価として、「これから見つけようとする宝物の10分の1を渡す」というのはどうか?と聞くと、老人は失望したように

「まだ手に入れていないものをあげると約束して始めたのでは、おまえはそれを手に入れたいと思わなくなるだろう」

 

 

など、含蓄のある言葉が数多く語られる。ビジネス書テイストの自己啓発書が「鼻について嫌だ」という方は、読んでみてはいかがだろうか。