新卒採用がスタートし、いよいよ「面接」のシーズンだ。
この時期には色々な学生の方とお会いできるのが非常に楽しみである一方、会社の幹部の方々の「学生とのやりとり」も、非常に私にとっては勉強になることが多く、こちらもまた楽しみである。
数々のエピソードが今年も生まれているが、ひとつの話をご紹介したいと思う。
先日、私が参加した面接において、最後に恒例の「質問タイム」があった。
この会社は「質問」に対して非常に開放的であり、いわゆる「タブーの質問」が存在しない。
退職率から残業の程度、有給休暇の取得率まですべて会社説明会で情報開示しているので、学生も遠慮すること無く、様々な質問を投げかけてくる。
その会社の幹部の方の一人は、
「学生からの質問が、一年の中で最も勉強させられることの一つですよ、将来の我が社の社員になるかもしれないだけではなく、我社の顧客や、取引先になるかもしれないですから」と言う。
だから、私は、その会社における幹部と学生のやりとりをいつも楽しみにしているのだ。
さて、その会社での面接で先日、非常に面白いやりとりがあった。
学生からよく出る質問の一つが、「仕事をやっていて、一番嬉しかったことは何ですか?」であるが、これに対する幹部の方の回答が強く印象に残ったのだ。
質問を受けると、幹部は静かに答えた。
「なるほど、一番嬉しかったこと、ですか。失礼ですが、お答えする前に、ひとつ私から質問をさせて頂いていいでしょうか?」
「は、はい。」
学生は、虚をつかれたようだ。
「なぜ、そのようなことが気になるのですか?」と、幹部は聞く。
学生は「そうですね…。正直に言えば、私はまだ働いたことがまだないので、「仕事のよろこび」を知りません。」と言い、しばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「だから、敢えてお聞きしたいと思います。新聞などで、「日本人は働き過ぎだ」と書かれていますが、私は「好きでやっている人」も多いのではないかと思っています。」
幹部は黙っている。
「なぜ、そんなに皆さんが働けるのか、不思議なんです。」と、学生は言った。
その幹部はじっと考えていたが、やがて自分の考えをまとめるように、ゆっくりと話しはじめた。
「普通、こういう時は、「目標を達成した」とか、「お客さんから褒められた」とか、そういったことを挙げる方が多いかもしれませんね。でも、皆さんにはおそらくピンと来ないでしょう。私も、そのような質問を就職活動の時にしたことを憶えていますが、「なんか、模範的すぎる答えだな」と思い、あまりピンときませんでした。」
幹部は息をついて、語り続ける。
「だから、本音で言いましょう。結論から申し上げると、一番嬉しかったことは、本当に些細な事だと思われるかもしれませんが、「お金を自分で稼げるようになった」ことですよ。」
学生たちはよく言葉の意味を飲み込めていないようだ。
「不思議ですか?でも私は、「自分で稼いで、普通に生活できること」が一番嬉しかったのです。親にも、誰にも頼らずです。初めて本当の「自由」を手に入れたと思いました。」
「自由ですか…?」
「そうです。頑張るのも、怠けるのも、稼ぐも稼がないも自由です。会社をやめるのも、独立するのも、やる気を出すのも、ふてくされるのも、自分の意志次第です。なんて素晴らしいことか、と思いました。」
「…。」
「仕事というのはね、お客さんのため、会社のためでもあるんですが、まず自分の独立のためにすることなんですよ。私は、そう思っています。」
彼は、そう結んだ。
人と人が出会う場、やっぱり、面接はいいものだ。
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