「金は命より重い」とか、「大人は質問に答えたりしない、それが基本だ」とか、「よく戦ったからじゃない…彼らは勝った、ゆえに今、そのすべて…人格まで肯定されている」であるとか、大胆な発言が乱発されることで有名な「賭博黙示録カイジ」というマンガですが、資本主義についての洞察がなかなか面白いです。
主人公の敵として登場するサラ金の親玉がこう言います。
”王は一人で王になるわけではない。金などいらぬ、と貧しきものが結束したら、王もまた消えるのだ。しかし、どうもそうはならんらしい。貧乏人は王にならんと金を求め、逆に現在いる王の存在をより磐石にする。
そういう不毛なパラドックスから出られない。 金を欲している以上、王は倒せぬ、縛られ続ける。王の地位を揺るがせるものがあるとしたら、金の魔力さえ届かぬ自暴自棄、そんな輩の突発的暴力くらいのものだ。この世のしきたりでは王は崩せない。
王もその点だけは注意して、そういうバカ者が出ぬよう、皆そこそこ豊かな気分、そういう気分だけは与えておる。実際はこき使っていようともな。”
現代社会への最高の皮肉という感じですが、会社の人事制度の本質と限界をよく表していると思います。成果主義が行きすぎて、勝ち組と負け組に絶望的な差がついてしまい、諦めてしまった社員が「金も出世も要らない」と言い出したら、人事制度は機能しません。
社員が皆会社をやめてしまい、「ブラック企業」等と言われて会社が崩壊する。社長は困ってしまうわけですね。
ユニクロの店長の待遇は、労働時間も長く、給料も安いから滅茶苦茶悪いわけです。でも「いつかは本部に行って勝ち組になれるかもしれない」「年収数千万も夢ではないかもしれない」「グローバルエリートになれるかもしれない」という気分は持たせてるわけです。実際はこき使われていても。
柳井さんはブラック企業といわれることに反論しています。実際には「グローバルエリート」に全員がなれるわけではありません。でも、「全員がグローバルエリート」を目指してくれれば、自分の王国は安泰です。
この概念は世の中へ拡張することができます。。「ビジネスの世界は逆ハンディ戦である」と述べた記事があります。
要するに、学校は出来ない子ができるようになったら褒めるが、社会はそうではない。
実績のあるところにますます仕事が集まる。品質が同じなら多少高くても大企業から買う、売れている代理店が優遇され、売れていない代理店はますます薄利でやらざるを得ない。同じ事が書いてある本でも、有名人が書けば売れる。
こうしてノウハウが有るところにますますノウハウが集積し、資本を持つところに更に資本が集積する。そう言うように、みんなが勝ちを目指すと格差を拡大する方向にしくみができていて、勝ち組はますます盤石になる。
当たり前の話ですが、「社会は厳しい」と皆が思う理由、大企業に就職したいと皆が思う理由はここにあります。みんな、既得権がほしい。人の憧れの職に就きたい、お金がほしい、王になりたい。それが、「勝ち組」をますます盤石にしている。
「競争させればさせるほどよい」という経営者がたくさんいるようですが、上の論理から言えば「勝ち組は皆に競争させたがる」のは当然です。
それが悪いのか、と言われれば別に悪いとは思わないです。世の中も活性化するし。 ただ、あまりに行き過ぎると「金も出世もいらない」という人は確実に増えます。「草食系男子」「ニート」の存在の増加、最近では「サイレントテロ」なんていう言葉もあります。
だから、「自己責任」とか、「若者を甘やかすな」とか、そんなに軽々しくいうもんじゃ無いですよね。「競争ならなんでも、礼賛する様な人が最近増えている」ので、あらためて整理してみました。