ある会社に訪問した時、「社員が挨拶をきちんと出来なくて…」と嘆く経営者の方にお会いした。
「社会人として、最低限のマナーですよ」
とその経営者は言う。そういえば、前職において、「挨拶・マナー研修」というのは新人・若手向けに大変人気があった。
経営者は、「きちんと挨拶できるようにするために、どうすればいいですかね?」と私に聞いた。
私は、答を持っていなかった。
また、別のとある会社に訪問した。今度は常務が「挨拶しない人が増えている」と言う。
たしかに、私が常務と話している間に、何人かの人が出入りしていたが、特に皆挨拶はしていない。みな、PCの画面を熱心に見つめているようだ。
「最近は、あきらめ気味ですよ」
と、その常務は言う。「一度研修にいかせてみました。1週間位は皆挨拶してましたが、元に戻ってしまいましたね。」
私は同意するしかなかった。
「挨拶」は、本質的には機械の潤滑油と同じだ。
そんなもの無くても暫くは稼働することができるが、摩擦が徐々に機械を痛めるように、長期的には人間関係を痛める。
だから、アンケートが示すように、「ご近所付き合い」で最も大事なのは、何気ない挨拶だ。
「敵ではないですよ」というちょっとした意思表明が、挨拶の本質と言っても良い。それを考えると、やっぱり挨拶はできたほうが明らかに得をする。
しかし、どうして挨拶が定着しない会社が多いのだろうか。
私はある時、その原因を突き止めようと、「うちの社員は挨拶しない」という愚痴をこぼしていた何人かの経営者の会社にとどまり、一日の挨拶の状況を観察してみた。
すると、面白いことがわかった。
・「挨拶する人」は、だいたいいつも同じ。条件反射のようだ。
・「挨拶しない人」も、自分に向けられた挨拶とわかっていれば、挨拶を返す人がほとんど。特に挨拶が嫌いなわけではないようだ。
・「社員が挨拶しない」と嘆いている経営者や管理職自身が、挨拶していないことも多い。
・誰か1人でも、「積極的に挨拶する人」がいると、その周りには挨拶する人が多い。
私がここから思うのは、挨拶を定着させるためには
「模範が必要」
ということだ。挨拶を積極的に行う人は、基本的にオープンマインドの人が多い。そういう人の振る舞いを見て、徐々にまわりの挨拶が苦手な人も挨拶に抵抗がなくなっていく。
「挨拶・マナー研修」は、挨拶の型を教えてもらうことはできるが、「どのようなシーンで、どのような気持ちで、どんなやりかたで」挨拶をするべきか、ということについては教えられない。それは日常生活の中で積極的に試さなければ体得できない。
ゴルフのスイングの本をいくら読んでも、実際にスイングしてみないとうまくならないように、挨拶も実際にやらなければ上達しない。
しかし、「挨拶なし」で生きてきた人にとって、「間」や、「雰囲気」など、挨拶の条件をその「場」から読み取るのは極めて難しいことだ。
そう、挨拶することは「難しい」と認識するべきなのだ。
したがって、経営や管理職は「社員が挨拶しない」と嘆くのであれば、自分が模範とならなくてはならない。自分が挨拶における「間」や、「雰囲気」を読んで、どのように挨拶をするか、皆に示さなければならない。
社員を研修に行かせても効果はたかがしれている。そうではなく、あなたの模範によって社員を変えるのだ。嘆いているヒマはない。
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