スーパーコンピュータ、雲、チリ、一見関係なさそうな3つのもの。果たしてどう結びつくのでしょうか。そんな研究をしている方がいます。
兵庫県立大学大学院、シミュレーション学研究科准教授の島伸一郎さんです。
島さんは以前ご紹介した藤原教授と同様に、「京コンピュータ」の巨大な演算能力を用いた研究をしています。といっても島さんは藤原教授とは全く異なる方向性を持った研究者です。研究テーマは
「超水滴法に基づく高精度気象モデルの研究開発」
です。
はい。申し訳ありません。私も全く意味がわかりませんでした。
超カンタンに言うと、「チリが水滴になり、水滴が雲を作る。そして雲が雨を降らせる。その一連の過程をコンピュータのシミュレーションによって再現しよう」という試みです。
(画像出典:http://www.simulation-studies.org/academic-staff/shima)
この試みによって最終的には天気予報、とくに局地的な雷であったり豪雨であったりの予測能力の向上が得られます。
このシミュレーションですが、実は膨大な計算能力を必要とする研究です。なにせ、雲を構成する粒子の数は膨大です。その膨大な粒子の一つ一つが更に相互作用を及ぼし合っているのです。
これを、コンピュータの中で正確に再現するには「計算方法のアイデア」と「巨大な演算能力」の両者を必要とします。
島さんは「計算方法のアイデア」を「超水滴法」という粒子集団の標本を定義する計算方法を生み出すことで解決し、「巨大な演算能力」は京コンピュータを使うことで解決しました。
この手法は気象学だけではなく、火山の噴煙や、噴霧燃焼(ディーゼルエンジン)などのシミュレーションにも有効であり、今後様々な分野で応用されることも期待されます。
この分野に取り組むきっかけは、京都大学在学中の指導教官、蔵本由紀先生のもとで学んだことでした。
在学中「非線形科学」に出会い、世の中の複雑な現象もコンピュータで解くことができるようになったことに感動し、島さんはこの道に進みました。
例えば、よく知られている非線形の不思議な現象として「メトロノームの同期」が挙げられます。Youtubeに実験の様子がアップされているので、御覧下さい。
複数のメトロノームを動く台の上に乗せてメトロノームを動かすと,やがて全てのメトロノームが同期して同じタイミングで音を刻むことが知られています。これは自発的に振動する物が持つ普遍的性質なのです。
島さんは「社会現象などの複雑な現象を、いかに普遍的な式で表現するかが面白い」といいます。
科学はすでに、かなり複雑な現象であってもコンピュータを使うことでその性質を調べることが可能になっているのです。
島さん、お忙しい中ありがとうございました。こちらの研究にご興味をもった方は
http://www.simulation-studies.org/academic-staff/shima
までアクセスし、コンタクトを取っていただくようお願い致します。
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