私は「男芸者」と言われるコンサルタントという職業で10年以上働いた。だから、サービス員や店員の方々の人当たりや接客にはそれなりに敏感な部分がある。
その上でいつも思うのだが、スターバックスの接客の良さは、コストパフォーマンスから言えば、最上級ではないだろうか。いや、もちろんそう思わない人も数多くいらっしゃることを承知で言っている。
ここで敢えて「コストパフォーマンス」と言っている理由は、一流ホテルなどと比べているわけではないと言いたいからだ。
そうではなく同じような価格帯でサービスを提供している、ファミレスやファーストフード、他のカフェなどと比較してのことだ。
なぜ、スターバックスは「接客が良い」と感じるのか、少し考えてみた。
すぐに思いつくのが、以下のような話である。
・雰囲気の良い職場である
・採用・教育のやり方が良い。
・積極的に顧客に話しかけている
・店内が落ち着いている
だが、いずれも外形的な話であり、私の中で今ひとつ「接客の根源」とは言い切れない。その下に流れる根底の考え方があるのではないかと思う。
例えば、スターバックスの店員さんは「いらっしゃいませ」ではなく、「おはようございます」や「こんにちは」という挨拶をしてくる。思わずこちらも習慣で「こんにちは」と言ってしまうのだが、他の店ではこのようなことは起きない。
また、他の商品をコーヒーと合わせて勧める際も、「◯◯が合いますよ」や「◯◯が美味しいですよ」と紹介する。「ポテトはいかがですか?」という機械的なおすすめではない。
そう考えていた時、ある友人が私に言った。
「スターバックスの店員さんは、なんか知り合いや友達の感じがするんだよね」
なるほど、と思った。ここでふと接客で有名なリッツ・カールトンホテル※1の従業員の行動指針である「クレド」を思い出した。
そこにはこう書かれていた。
「私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパーソナル・サービスと施設を提供することをお約束します」
リッツ・カールトンがこれを実行できているかはさておき、ここには一つの本質が書かれている。
最高のサービスとは、「パーソナル・サービス」つまり、個人の親切心から出たサービスが、最も素晴らしく、心に沁みるということだ。
1週間ほど前、和菓子の老舗「とらや」の主人が書いた赤坂本店の休業のメッセージが素晴らしいと話題になった。
この店でお客様をお迎えした51年のあいだ、多くの素晴らしい出逢いに恵まれました。
三日にあげずご来店くださり、きまってお汁粉を召し上がる男性のお客様。
毎朝お母さまとご一緒に小形羊羹を1つお買い求めくださっていた、当時幼稚園生でいらしたお客様。ある時おひとりでお見えになったので、心配になった店員が外へ出てみると、お母さまがこっそり隠れて見守っていらっしゃったということもありました。
車椅子でご来店くださっていた、100歳になられる女性のお客様。入院生活に入られてからはご家族が生菓子や干菓子をお買い求めくださいました。お食事ができなくなられてからも、弊社の干菓子をくずしながらお召し上がりになったと伺っています。
このようにお客様とともに過ごさせて頂いた時間をここに書き尽くすことは到底できませんが、おひとりおひとりのお姿は、強く私たちの心に焼き付いています。
なぜこれが素晴らしいか、一言で言えば「主人のパーソナルな親切心」が色濃く反映されているからだ。黒川氏の顧客への愛情が溢れている。
それと比べれば、世にあふれるファーストフードやファミレス、他のカフェなどは、「いかに顧客をシステムに乗せて捌くか」を重視しているように見える。つまり、「親切」より「効率」が重視されている。
例えば、スターバックス以外のカフェ、あるいはファーストフードでまず聞かれるのが、「こちらでお召し上がりですか?」だ。「こんにちは」ではない。要件を単刀直入に聞かれているのだ。
我々はコンベアーに載せられて手順通り処理されるモノであるという印象となるのは当然だ。
それでは、この「パーソナルサービス」の鍵となる要素は何か。私が受けた印象では、「裁量」にあると考える。
つまり、その場で、私が良い、と思ったことを提供するには、ルールを気にせず行動できることが重要なのだ。本来親切を行うことにルールなどない。「まごころ」は、その場その場の雰囲気に合わせて発露するものだ。
裁量を与えることが、会社を強くする一つの理由は、「目の前の顧客に合わせた最適化を、社員のその場の判断で自動で行うことができる」ことにある。
もちろん、私の考え過ぎなのかもしれないが。
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※1 食品産地の偽装は残念だった