ある会社の従業員が

「明日は社長の家の引っ越しがあるんで、大変なんですよ〜」と言っていた。

 

聞けば、アルバイト料は多少出るらしい。取引先の人も手伝いに来るようだが、その人達は「有志」ということで、何も出ないだそうだ。

他にもこのようなことがあり、社長が個人的に出資をしたお店の開店の手伝いなどもやっている、と彼らは言う。

 

社員の人たちががどう思っているのか聞いた所、賛否がわかれた。

「社長が好きなので構わない」という人たちと、「私的な用事に突き合わせないで欲しい」という人たちだ。

 

その従業員の人に「あなたはどちらか?」と聞くと、

「正直言うと、あまり行きたくはない。休日潰れるし。でも、手伝わないと社長にどう思われるかわからないから、とりあえず行く」

と言った。

 

だが、社長は評価云々の話はしていないとのこと。

「そういった私的な事情は、加味してないと思いますよ」と別の方がいうが、その従業員は「そんなのわからない」と反論した。

 

その社長は社員にアルバイト料も出しているし、取引先の人たちが手伝いに来るのは小売業などではよくおこなわれている。

スーパーや家電量販店において、メーカーの人達が売り場に製品を並べたり、接客したりすることもよくあることだろう。

「社長に対する接待」も取引先の重要な役割とすれば、まあ商慣習の範囲内と言えるのかもしれない。

 

 

だが、社員を社長の私的な用事に使うことは必ず誤解を生む。

アルバイト料が出ている、という話を知らない人もいたようだし、実際に取引先の人と従業員の事情を区別しない人も中にいる。

だから当然「社長が、無理やり社員を休日に働かせている」という噂が立つ可能性もある。また「社長が評価には関係ない」と言おうが言うまいが、社員は必ずそれを気にする。

それがどのような結果を引き起こすか、経営者であればわかるだろう。

 

 

「李下に冠を正さず」という故事がある。

李とは、すももの木という意味で、

「すももの木の下で冠をなおそうと頭に手をやると、すももを盗もうとしているように見える」という意味で、転じて、誤解を招くような行動は控えよ、という教訓だ。

経営者の一挙手一投足は、社員に監視されている。

 

 

京セラ創業者である稲盛和夫氏は、経営者となることは「公人」となることだという。恐らくそのとおりだ。

「良い人が来ない」「すぐに辞めてしまう」と嘆く経営者は多いが、「公人」に徹することができていないために人の心が離れてしまっていることも多いのではないかと推測する。

 

とは言え、カネと権力を手に入れた人間が自らを律し堕落しないように努めるのは、サラリーマンに「起業しなさい」というのと等しく、大変に難しいことではあるのだが。

 

 

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(kris krüg)