性善説、という説がある。人はもともと善き行いをする生き物だという説だ。逆に性悪説、というものもある。人はもともと悪事をはたらく生き物であり、ルールや罰で縛る必要があるという説だ。
どちらが正しいか、と問われれば当然「人による」という話になる。しかし、どれくらいの人が性善であり、どのくらいの人が性悪であるかということは一般的にはわからない。
このような隠れた実態についての分析や、統計データを紹介しているのが上の書籍である。
触れられているのは以下の様なエピソードである。
ポール・フェルドマンという証券アナリストが独立してベーグル屋を始めた。
と言っても店舗を特に構えるのではなく、朝、ベーグルをオフィスのカフェテリアに届け、昼過ぎに代金と売れ残りを回収する。代金は自己申告によって箱のなかに入れておく、という仕組みだ。
この商売はうまくいき、ベーグルは週に8400個、顧客は140社となり、収入はアナリストの時代のそれを超えた。
面白いのは、「代金の回収率」について彼が詳細なデータを取得したことにある。どの程度の人がベーグルを持ち逃げしたのか?それを1セント単位で計測できるのだ。
「人はベーグルを盗むのか?」
「もし盗む人がいるなら、盗む人がいる会社と、いない会社はどのような特徴を持つか?」
「盗みが増えるのはどんな時で、減るのはどんな時か?」
彼は、彼自信が在籍していた会社での回収率に基づいて、回収率は95%だろうと見積もっていた。
ところが、実際は95%には満たず、外の世界では95%に満たない数値で良登しなければいけなかった。この中で彼は
回収率が90%を超えていれば、「正直者の会社」
80%から90%であれば、「困ったものだが、許せる範囲の会社」
回収率が80%を下回ってる会社は、「盗人の多い会社」
とみなすようになった。
ベーグルのデータは面白い事実を提供する
◯一般的に、大規模なオフィスより、小規模なオフィスが正直である。(回収率が3%から5%高い)これは、田舎と都会の犯罪率の比較とそっくりだ。
◯気分で人の正直さは変化する。例えば天気は重要。季節外れの好天だと正直さは上がる。逆に季節外れの荒天だと正直さは下がる。
◯休日や祭日などの前、(特にクリスマスやバレンタインデーの前)などのように、好きな人への期待感が溢れ、不安にかられる時期は、不正が多い。単なる休日や祭日はごまかしが減る。
◯会社での地位が高い人のほうが、地位の低い人より支払いをごまかすことが多い。(特権意識がそうさせるのかもしれない)
◯平均して87%の人は、誰も見ていなくても、正直に代金を支払う
「会社で定めるルール」の多くは、人を性悪だとみなし、枷をはめる。しかし、多くの場合人はだれもが見ていなくても、正直な振る舞いをする。
-ただし、余計なプレッシャーや、気分の悪くなることが会社で頻発しない限り。
上司が真っ当な振る舞いをせず、ルールで人を縛ろうと画策する人物であった場合、会社すべてでそのように振る舞う可能性を高めていることになりかねない。
むしろ、13%の不正直者を摘発する事を追求するよりも、87%の正直者に気持よく働いてもらえるような会社にするほうが生産的かもしれない。