失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)「たくさん失敗した方がいい」という人がいる。そのとおりだ。

また、「失敗は成功のもと」という諺にもある通り、「失敗」は成功するよりもはるかに多くのことを学べるという。これもまた事実だ。

 

しかし、多くの人は「失敗」することを許されていない。

 

例えば、「学歴採用」という事象がある。

学歴が良い人は、仕事もできるか?と問われれば、多くの人はNoである、と解答するだろう。実際、学歴がさほど高くなくても、仕事が出来る人は存在する。しかし、日経新聞にも書いてあるとおり、大手企業に入社する人の多くは、「学歴の良い人」である

なぜなら、大企業の採用担当者は、「失敗できない」からだ。出来るだけ「出来る人が多い」と思われる高学歴の中から採用する。

 

また、多くの人は家や土地を買うときに慎重になる。

「失敗しない家選び」などのキャッチフレーズがついた情報誌は数多くあるが、一生をかけて払い続けるほどの金額の大きな買い物の場合、「たくさん失敗した方がいい」とアドバイスする人はいない。

なぜなら、多くの人は家を買うことに「失敗できない」からだ。失敗すれば非常に大きな損失を被る。

 

他にも大事な顧客との打ち合わせ、結婚、様々なシーンで、「失敗したほうが良い」とは言えないことが数多くある。本の一つの失敗で、自分のキャリアを台無しにしてしまうことだってある。

これは、考えて見れば当たり前である。「弱者」は、失敗してしまうと致命的なのだ。

 

そして、「失敗できない」事が数多くあればあるほど、「挑戦」できなくなる。無難にこなすことが必要とされる。「失敗して憶える」は、実は強者の戦略なのだ。

強者は失敗しても挑戦を続けることができ、ますます大きな成功を手にする。弱者はそもそも失敗できない。大きく成功する挑戦すら難しい。

 

そんなことを考えると、「失敗しろ」と新人に勧めるのはいささか間違っている気がする。新人はその会社の中ではいわば「弱者」である。失敗できない。失敗できるのはその会社の中にいる、信用と実績を積み上げた部長、役員、経営者だ。

 

上の人が積極的に失敗できること。これが「失敗してもいい」の本質であり、新人に「失敗しろ」と言うのはマナーであるとか、ちょっとした叱責をもらうであるとか、「失敗」とも呼べないようなたぐいのものだ。そんなものは失敗する必要すら無い。事前の練習や予習で防げる。

 

会社を改革するために、「上から変わる」という言葉があるが、同じように「失敗も上からやっていく」ということではないだろうか。