ある若手の方から「一生懸命働いても、なかなか給料が上がらないんです。私の努力がたりないせいなのでしょうか?」という相談を受けた。
この質問にうまく答えるのは非常に難しい。「努力」が原因となる場合と、そうでない場合があるからだ。
結論から言えば、給与を決定する要因は大きく2つある。
①社内で、どれだけの取り分を得られるか。
②あなたが勤めている会社は、世の中からどれだけの取り分を得られるか。
①は非常に簡単だ。会社の稼ぎ(売上)から、あなたの給与が捻出されているわけだから、社内での自分の取り分が大きければ給料は高くなる。そして、一般的に自分の取り分を増やすためには、出世する必要があるから、ここは努力でなんとかしなければならない領域だ。
上司から言われる「努力せよ」というメッセージは、ほとんどの場合「会社の中での取り分を増やすためには、出世しなければならないから、努力せよ」というメッセージとして捉えておけばよい。(転職できるように努力せよ、という上司はあまりいない)
問題は②である。いくらあなたが会社の中で出世したとしても、会社の稼ぎ自体が少なければ、あなたの取り分は少なくなる。無い袖は振れない、というやつだ。
したがって、給与を増やすためには、「稼げる業種・業界」で働く必要がある。
しかし、「稼げる業界」とはどのように判断すればよいのか。
ここで判断に用いるのが、「生産性」という概念だ。
簡単に言ってしまえば、生産性が高い仕事は、「少ない努力で、多くのものが得られる」仕事で、生産性が高ければ、「少ない努力で、より多くの給与がもらえる」仕事だといえる。
これについてはピーター・ドラッカーがその著作で詳しく述べている。
”テイラーが知識を仕事に応用した数年後には、肉体労働者の生産性が年率3.5%ないし4%で伸び始めた。この数字は、18年で倍増することを意味した。
その結果、あらゆる先進国において、テイラー以降今日までに生産性が50倍に向上した。
この前例のない生産性の伸びが、先進国における生活水準と生活の質の向上をもたらした。それら先進国における生産性の伸びの成果の半分は、購買力の増大、すなわち生活水準の向上をもたらした。3分の1は自由時間の増大をもたらした。”(ポスト資本主義社会)
給与を増やすには、何よりもまず「生産性の高い業種・業界」で働くことが重要だということだ。
では、「生産性の高い業種・業界」とはどこだろう。
中小企業庁の調査を下に示す。
これを見ると、不動産業、情報通信業、卸売業は生産性が高く、飲食店・宿泊業、小売業は生産性が低いことがわかる。
すなわち、同じだけ努力しても、不動産やITで働いたほうが、報われやすいということが言える。
なお、これは中小企業における比較だが、大企業と中小企業を比べると、大企業の方が生産性が高い。
すなわち、中小企業で働くよりも、大企業の方が同じ努力に対して多くのものが得られる、ということだ。
出世できないのは、あなたの努力によるものが大きいかもしれない。しかし、給与が上がらないのはそういった企業の内部事情によるものもあるが、むしろ外的要因やマーケットに依存する。
したがって、「努力してもあまり報われない」と感じるのであれば、出世を目指すよりも、より生産性の高い業種、あるいは大企業を目指して転職してしまうというのも一つの手だ。
「努力不足」とあまり自分を責めず、無理して出世するよりも、生産性の高い会社で働くこと。これは、業界の再編や、企業の淘汰を促すので、世の中全体にとってもいいことだ。
ぜひ、自分の働いている会社の生産性を、他の会社と比べて欲しい。いろいろなことがわかるはずだ。