寿司は日本が世界に誇る食文化だ、とどこかで読んだ本に書いてあった。確かにその通りで、日本にあるミシュラン3つ星の12件のお店の内、3件は寿司屋である。
フレンチ、イタリアン、和食、というカテゴリではなく、「寿司」というカテゴリを作っても全く問題ないくらいなのだ。
そして、日本人の多くの人が寿司を愛するように、私もまた寿司が好きだ。
もちろん寿司と言っても様々で、コンビニで売っている巻物から、バッテラ、回転寿司、ちらし寿司、ちょっとした居酒屋でも出すような握りまで、各者各様の味わいがある。
が、やはりどういった寿司が定期的に欲しくなるかといえば、江戸前寿司だろう。
江戸前寿司は、単なる「にぎり寿司」とは少し異なる。
例えば「北海道で旨い寿司を食べた」などと出張族から自慢をされることがしばしばあるが、そういった地場の新鮮な魚を使った寿司とは似て非なる存在だ。
江戸前寿司は東京でしか味わえない。
すし飯が固くて塩辛く、酸っぱい。また「大きな寿司」を売りにする店もあるが、ほとんどの江戸前寿司は小さく一口大であり、「口に放り込んで食べる」と言った具合だ。
季節によるが、マグロ、シマアジ、スミイカ、コハダ、クルマエビ、アナゴ、ヒラメ、トリガイ、サヨリ、ウニ、コダイなどを食べたあと、鉄火やかんぴょう、カッパで閉めるのがお決まりのパターンである
酒は日本酒が一番あう。シメたコハダの酸っぱいところを口に放り込んで、日本酒をやれば至福の時間が待っている。
そんな江戸前寿司だが、もう10年近く前から通っている、個人的に好きな人形町の寿司屋がある。席はカウンターが10席ほどしかなく、こざっぱりとした美しいお店だ。
ご主人と奥様の2人でお店をされているのだが、いつ訪問しても素晴らしい寿司をいただける。
特に素晴らしいのが雲丹で、苦手という知り合いでも、「ここの雲丹はとても美味しい」と繰り返し言う。バフンウニとムラサキウニの両方を出していただけるのだが、同じ雲丹でも全く異なる香りであり、2度楽しめる。
バフンは癖がなく、ひたすら甘い。ムラサキはウニ特有の香りが強いが、そのクセが日本酒をより引き立てる。
冬場は寿司ではないのだが「牡蠣」を出してくれる。この牡蠣はどこで食べた牡蠣とも全く違う味がする。
「牡蠣は海のミルク」という表現があるが、私はミルクのような牡蠣など食べたことがなかった。なぜこのような表現を使うのかと不思議だったのだが、この牡蠣はまさに海のミルクと呼ぶにふさわしいものだ。
寿司は贅沢な食べ物であるが、蠱惑的なその魅力には抗えないものがある。時間と、懐具合に余裕があるときには、ぜひ江戸前寿司を経験してみてほしい。
なお、ご主人から許可を頂いたので、お店の情報を載せておく。
人形町 すし柿崎
住所 東京都中央区日本橋人形町2-8-11
TEL 03-3249-3067