あるITスタートアップ企業の経営者と、新卒採用の話になった。その時に、彼はボソッと「東大生って、使えないんですよね。」と言った。
「慶応や早稲田、あるいは地方の国立の出身の人のほうが、有能な事が多いです」と言う。
彼は比較的偏見の少ない人物であると思っていたので、この発言は意外だった。
「出身校によってそんなに違いますか」
「違いますね。もちろん私の知る限りです。まあ大企業の歯車になったり、官僚、あるいは技術者になるのなら良いかもしれませんが、起業、経営管理者、マーケティング、クリエイティブなどはダメですね。」
私は理由を聞いてみたくなった。
「なぜそう思うのですか?」
「そうですね、一言で言うと、売り込みが下手なんです」
「売り込み?」
「そうです。売り込み。わかりやすく言うと営業が苦手な人が多いです。アピールをしたり、自分を認めさせるスキル、とでも言えばよいのでしょうか。」
「ほう」
「先ほど挙げた職種は全て、彼らの苦手とする領域の仕事が重要なのですよ。」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「簡単ですよ。東大生は勉強がいつも一番だったから、売り込まなくても周りが勝手に認めてくれるんです。アピールしなくても、彼らは周りが勝手にチヤホヤしてくれたのですから。でもね、社会はそうは行かない。指標が多様ですからね。」
「勉強が出来るだけでは、認めてもらえない、ということでしょうか?」
「そうです。その点早慶の学生はいいですね。彼らは勉強だけでは認めてもらえないことを知っている。学生時代から、他のことでも目立たないといけない、とわかって過ごしてきていますから。ヘタすると、そういうことは中堅私大の出身者のほうが東大生よりもずっとうまいですよ。」
「なるほど…」
「東大生になると、保守的でも十分食べていけるわけですよ。任された仕事はまあ、こなしてもらえるし、一を聞いて十を知るチカラもある。ただ、起業やマーケティングなどは、保守的ではダメです。その点では絶望的に仕事ができない。売り込む行為をしてこなかった人は、現場では弱いですよ。」
「中には売り込みのうまい東大生も居るのでしょうか?」
「いますね。そういう奴は天才です。まあ、少ないですが。あと、売り込みが不要なほどの偉大な業績を残す人物もいますが、まあ、会社には入ってきませんね。研究者になるか、独立して起業するかしてますよ。」
「学生間の差が大きいですね。」
「そうです。東大生ってのは、もともとの能力が高いだけに、できる奴は際限なくできるんですが、ダメな奴は本当に成長が止まってしまう。学生間の差が大きいとこなんですよ。やっぱり「勉強ができる」っていうだけで、チヤホヤされるのはマズイと思いますね。」
彼が言うことが事実なら、競争であまり負けたことがない、というのも考えものである。なにせ、貴重な勉強の機会を逃してきた、ということなのだから。
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