「上から目線」という言葉は実に良く出来ている。「偉そうな態度」と単に言うよりも中身が伴っていない雰囲気をよく表しているし、語感も良い。
ただ、使い勝手が良すぎるが故に、問題もある。
最近訪問した会社で、先輩と後輩の「1日の振り返り」を見学する機会があった。
そこでは「今日の顧客訪問の結果について、自分なりの見解を述べよ」というお題が先輩から後輩に出された。
「あの担当者の人、かなり上から目線でしたね。私、気になりましたよ。」
「上から目線?」
「態度悪くないですか?なんか、ウチを業者と思って見下しているっていうか。」
「わかったわかった、あの人はいつもそうなんだよ。で、今日のやり取りを見てどう思った?」
「その他は特にないです。」
「おまえ、まだそんなどうでもいいことを気にしてたのか。」
「どうでも良くないですよ。上から目線って、気になりませんか?社内でも結構いますけど。」
先輩はやれやれ、といったしぐさで
「上か下かとか、くだらないことを気にしている暇があったら、仕事をしろ。そんなことを気にしてても何もならないぞ。」
と言った。
話を聴くと、普段からその後輩は「上から目線」に非常に敏感だという。
「偉そうな人なんて、いくらでもいますからね。そんなことを気にしてちゃ仕事になりませんよ。大体「あいつは上から目線だ」なんて言葉を使うやつほど、仕事ができないんです。良いじゃないですか、少しぐらい偉そうな態度なんて。可愛いもんです。」
「他にもそういう人いるんですか?」
「いますねー。最近は特に、言葉遣いに異常に敏感な奴がいますよ。医者が上から目線だったとか、マスコミが上から目線だったとか。ああいう人たちって、疲れないんですかね。」
「たしかにそうですね。」
「言葉遣いといった瑣末なことにこだわったり、フラットな関係に固執するのは、やっぱり理性が感情に負けたり、自信がないから上から目線をスルー出来ないんでしょうね。」
「なるほど。」
「もちろん若手だけじゃなくて、こういうのはむしろ「出世できなかった中高年」に多いと思いますね。「あいつは上から目線だから、あいつの言うことは聞きたくない」とか、平気でいう人の気がしれないですよ。つべこべ言わずに仕事しろと。
…あ、私が上から目線でしたね。」
自分が知らず知らず「上から目線」で人に接してしまうことには、かなり注意を払う必要があるかもしれない。
世の中には確かに異常に上下に敏感な人が数多く存在するし、無用に敵を増やす必要は全くない。件の顧客担当者も「上から目線」でいることでかなり損をしているのではないだろうか。
しかし、人の「上から目線」にいちいち反応するのもまた愚かな行為だといえる。「人は感情の生き物」ではあるが、いちいち感情に左右されていては、仕事もままならない。
そう考えると、しばしば相手の「上から目線」に苛つく自分もまだまだだな、とつくづく思う。
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