「やればできる!」の研究―能力を開花させるマインドセットの力子どもや、部下のやる気を高めるには、「褒めなさい」ということがよく言われる。あるいは、「褒めて伸ばす」などという言葉がまことしやかに語られる。

だが、それは本当なのだろうか?

 

この問題に対して正面から切り込んでいるのが、スタンフォード大学の心理学教授であるキャロル・S・ドゥエック氏だ。かれは30年来の研究で、人間の達成動機、人間関係、そして精神保健に関する分野で大きな成果をあげている。

 

彼は、その著書の中で、「褒める」ということに対して、「良い褒め方」と、「ダメな褒め方」を明確に区別している。

一つ例を挙げよう。以下の褒め言葉のうち、どの言い方が最も良い褒め方だろうか?

 

 

(背景)営業マンの佐藤さんは、入社1年目。新人の時から頑張っているが、同期9人の中では7番目に初受注を成し遂げた。初受注がなかなか出来ないことに対して焦りを感じていたようだが、苦労して受注した今はホッとしている。

 

1.佐藤さん、初受注おめでとう。これからもバリバリ受注してくれよ。期待してるぞ!

2.佐藤さん、初受注おめでとう。君には才能があると思っていたから、初受注が少々遅くなっても、きっとやってくれると思っていた。これから期待しているぞ!

3.佐藤さん、初受注おめでとう。努力した甲斐があったね。これからも頑張ってくれ。期待しているぞ!

 

さて、どの褒め方が最も良いだろうか?

 

 

ドゥエック氏によれば、1.と2.は「やってはいけない褒め方」であるという。

 

1.は、「成果」に対して期待をしていることになってしまうからだ。裏を返せば、「成果が上がらない奴には期待しない」というようにも取れてしまう。成長するためには結局たゆまぬ努力と長い時間が必要だとすれば、目先の「成果」を追わせるような褒め方は、長期的に彼のモチベーションを著しく損なう恐れがある。

 

2.は、成果を強調しているわけではないが、「才能」を褒めている。才能をほめられた人は、その期待に答えるべく「如何に努力せずに結果を出すか」に拘るようになる。これでは成長は望めない。

 

3.は、成果でもなく、才能でもなく「努力」を褒めている。努力を期待することで、新人の間「何が最も重要な活動なのか、当然努力だ」というマインドセットが身につき、大きく成長する下地ができる。

 

 

ドゥエック氏は述べる。「努力することで、人は何の分野においても成長することが可能だ。」

蓋し、ビジネスにおいて、才能や頭の良さに差などは存在しない。仮に存在しても影響度は低い。差を生むのは、どれほど努力できるか、というマインドのみである。