その会社の担当者は、事業規模を考え、「社員数を5年後までに、◯◯人に増やす」という経営計画を立てていた。よくある経営計画書だ。
ところが、その会社の経営者はそれを見て不満そうな顔であった。
私は、その顔を見て、経営者に「なぜ人数の計画に不満なのですか?」と聞いた。
経営者はこう言った。
「安達さん、社員は、できるだけ増やさない方がいいんです。マネジメントも、コミュニケーションも難しくなる。人数に関する目標をたてるならば、売上・利益はこれだけ上げつつ、社員の人数をこれだけに抑える、のほうが遥かにいい目標です。」
そうなのだろうか。私はしばし考えた。
調べてみると、例えば、2014年時点で、世界の時価総額のトップの企業は上から、アップル、エクソン・モービル、Google、マイクロソフトである。各々の人員数は8万人、8万人、6万人、10万人である。
合計すると32万人。多いように思える。
しかし、実はこの数字はかなり小さい数字である。例えば日本の重電の雄である日立製作所の人数はちょうど32万人。
世界時価総額トップの企業は、「社員を数多く必要とはしてない」のである。
世の中には少し景気が良くなると、大量に社員を雇おうとする会社も多い。
それはそれで別に悪いことではないのだが、一気に社員が増えるということは、「調子が良い事業」が傾いた時に、大量に不要となる人員ができるということでもある。
しかし、本当に先を見越して経営するならば、
「今の人数で、もっと大量の仕事をさばけないだろうか」、そして、「余剰となった人員で新しいことを行い、そこで人を必要とするのであれば、少しずつ人を雇う」
と言う方針にしたほうが良いのではないか。そのようなことをこの経営者は言っていた。
そういえば、ドラッカーも著作「経営者の条件」にて、下のようなことを言っていた。
”一定の業績を得るために投入した努力が少ないほど、良い仕事をしたことになる。
市場が求める自動車や鉄鋼を生産するために、10万人が必要だということは、実のところ、エンジニアリング上の未熟を示すにすぎない”
特にスタートアップにとってはそうだが、
人を増やすのは「その人しか持っていないスキルや知識」が欲しいから、というように考えたほうが良さそうだ。
「今目の前にある仕事を人を増やしてもっとこなそう」というのは、悪くはないが次善策にとどめるべきかもしれない。