「任せて下さい」という言葉は素晴らしい。「私が責任をもってやります」という表明だ。
部下にそう言われると、逆に上司は「失敗してもオレが責任をとってやる」と言いたくなるのであるが、前職で、これとは正反対の企業に訪問したことがあった。
私 「では、この資料の空欄をを埋めていただければとおもいますが…どなたにお願いすればよろしいですか?」
プロジェクトメンバー 「…」
私 「それでは、プロジェクトリーダーの◯◯さんに、割り振りを決めて頂いてもよろしいですか?」
リーダー 「そうですね…では、××さん、お願いできますか?」
××さん 「いや、ちょっと今週は忙しくて…私以外の人でもいいでしょうか?」
リーダー 「それでは、△△さん、大丈夫ですか?」
△△さん 「いえ、ちょっと私も…」
リーダー 「そうですか、安達さん、ちょっとまとまった時間出来る人がいなさそうです。来週までということでしたが、もう少し伸ばせませんかね?」
私 「伸ばすのは構いませんが、その分プロジェクトの完了が遅れる可能性がありますが…それでもいいですか?」
リーダー 「そ、それは困ります。この宿題、みんなでやってもいいんですよね?」
私 「もちろんです」
リーダー 「であれば、××さんと、△△さん、お二方にお願いできますか?」
××さん 「まあ、それなら…」
△△さん 「仕方無いですね。」
私 「ありがとうございました。では、どちらかの方に責任者になっていただけますか?」
リーダー 「責任者が必要なんですか?」
私 「はい。」
リーダー 「責任者、というとオーバーなので、2名とも担当、と言う形ではダメですか?」
私 「いいですが、その場合、プロジェクトリーダーの◯◯さんに、責任者になって頂いてもいいですか?」
リーダー 「責任者の件ですが、この場で決めないといけないでしょうか?」
私 「わかりました…今日中に責任者を決めて、お名前をメールで送ってください」
だが、「責任者」の名前は2日たっても送られてこなかった。
私はリーダーに電話を入れた。
私 「責任者、結局どなたになりました?」
リーダー 「その件ですが、ご連絡しようと思ってました。実は、「責任者」を決めない方がウチとしてやりやすいので、決めませんでした。」
私 「…どういうことでしょう?」
リーダー 「忙しいので、責任者は嫌だと彼らは言っています。2名には努力してもらってますので、きちんと終わらせると思います。」
私 「…わかりました。それであれば結構です。」
嫌な予感がしたが、結局私のほうが折れ、1週間後まで待った。
予想通り、2名は宿題を終えることが出来なかった。それどころか、宿題をほとんどやっていなかった。
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私は、なぜあそこまで責任者を忌避するのかがとても不思議だった。
そして、その理由はこっそり後からリーダーが教えてくれた。
この組織は「減点方式」によって評価が決まっていた。評価制度には「納期厳守」の文字があり、納期を守れなければ評価を下げる、というものだった。
「何かができる」という加点方式によって評価するのであれば、人は進んで責任を引き受ける。
しかし、「何かができないこと」によって減点され、評価を決定するような組織であれば、人は「必ずできること」にしか手を出さない。
そういう話を目の当たりにした会社だった。今でも強烈に覚えている。