ある方から、意見を頂いた。コンサル会社で、部下に課した8つの訓練。をお読みいただいた方からのご意見だ。
文中に、「ディスカッション」についての記述を見ました。
”「相手のプライドを傷つけずうまく本音を引き出し、自分の言っていることを相手に理解してもらった上で、ディスカッション前に出ていた案よりも良い案で合意する」という結果を得るための活動が「ディスカッション」である。”
とありますが、こちらが正しいことを言っているのに、相手が理解してくれないことが多いです。どうすればいいでしょう?
これについては、一つのエピソードをご紹介したいと思う。
ある大企業に訪問した時のことだ。私はある部長さんに同席し、会議に出席することになった。会議の内容は今後の部の方針に関するものであったが、方向性を巡って対立が予想された。
かくして会議は始まり、予想通り喧々囂々の議論となったが、その中で一名、ある若手の課長が頑張っていた。その方は低迷する業績に一石を投じるべく、綿密に用意してきたプランを発表し、なんとか部署の業績を好転させようと一人気を吐いていいた。
マンガや物語であれば、「皆、そのプランに感動し、部署は一丸となって…」となるのかもしれないが、現実は厳しい。その課長のプランには懐疑的な意見が噴出し、会議は迷走した。
個人的には、その課長のプランは良く出来ていたし、やってみる価値は十分にあると感じた。しかし、保守的な他の幹部たちはなかなか賛同しない。
ついに部長は休憩をとった。そして、休憩中に別室にその課長を呼びつけたのである。
部長はおもむろに言った。
「頑張っているな。◯◯課長が、やる気のある人物だ、ということは皆よくわかっただろう。」
「はい、でも…」
「でも?」
「なんで他の課長連中はあんなに頭が硬いんですかね。怒りすら覚えます。ちょっと考えればわかるはずなのに。」
普段温厚な課長が、気色ばんでいる。
部長は、その課長に静かに言った。
「なぜ、お前のほうが正しいことを言っているのに、皆に聞いてもらえないと思う?」
「え…?…彼等が変わりたくないからでしょう。それか、怠けたいからじゃないですか?」
部長は黙っている。
「いい加減、そういう彼等を何とかしてください、部長!」
部長はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「自分と異なる意見を述べる人々に対し、3種類の反応がある。知ってるか?」
「どういうことでしょう?」と、課長は虚をつかれたようだ。
「一つ目は、今の◯◯課長のように、相手を「敵」とみなす反応だ。どちらかが排除されるか、一方が折れるまで戦うことになる。」
「…」
「二つ目は、「諦める」という反応だ。要は「わかってもらえないので、もういい」と言って、投げ捨てる反応。無責任だ。」
「…。」
「わかるな。私はどちらも望んでいない。」
「では、どうすれば…?」
「3つ目の反応を取るんだ。3つ目はどうすべきか、◯◯課長ならわかるだろう。」
「部長が前に仰っていた…。やり方でしょうか。」
「よくわかっているじゃないか。私は前にどういったかな?」
「はい。3つ目の反応は、「相手の気持になって、相手の意見を合理的だと考えよ、相手が自分と同じくらい賢いと考えよ。自分の意見に自ら反論してみよ。そうすれば、相手の考えていることの本音が見える。それを踏まえて、次の意見を出せ。」でしたでしょうか?」
「よく覚えているじゃないか。」
「しかし…。」
「しかしではない。やるんだ。」
「はい。」
かくして会議は再開した。
課長は、反対派にこう言った。
「自分の意見に固執して、申し訳ありませんでした。少し考えましたが、皆さんの意見に「なるほど」と思う部分がありました。皆様はひょっとして私のプランに対して、◯◯というご心配をされているのではないかと思いまして。私も考えましたが、確かにその通りです。」
そして、反対派の一人が口を開いた。
「◯◯課長、そうは思っていないが、私はひょっとしたら△△が必要だと思っているだけだ。」
「△△ですか…。ふーむ。なぜそう思ったのですか?」
「以前、私もそれを試したことがあった。その時に起きたことを考えると、◯◯だからだ。」
「…」
きっかり1時間後、皆、晴れやかな顔で会議を終えた。意見はまとまり、◯◯課長も手応えを感じていた。部長も満足そうだ。
部長は私に言った。
「面白かったでしょう。相手は敵ではなく、「合理的な人間」なのです。それを忘れなければ、対話の道は残されています。」
私は、それ以来「相手を打ち負かそうとすること」を辞めたのだ。「正しさ」は一旦脇に置こう。
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