d5aca0ef539f87e5809511840f57a30f_s人にバカって言っちゃいけない。私は子供の頃、そう教わった。「人にバカっていう人がバカだよ」、小学校の先生はそう言っていた。

 

誰であっても、子供の頃に「人にバカと言ってはいけない」と習ったはずである。また自分が親になったとして子供が人に「バカ」と言っていたら「やめなさい」と叱るだろう。

人に向かって「バカ」と言ってはいけない、というのはそれくらい当たり前のことだ。

 

だが、web上でも、テレビでも、「バカ」と人に向かって言う方を大勢見かける。公然と「バカ」と発言してしまう人、webに安易に「バカ」という書き込みをする人を見ると私は少し悲しい気持ちになる。

 

 

かつて、私が訪問していた会社の経営者で、社員に「バカ」と公然と罵る人物がいた。

たしかにその経営者は有能であった。会社を自ら興し、売上利益とも順調に伸びていた。しかし、彼には残念ながら人望がなかった。「バカ」という辛辣な言葉が、彼から人を遠ざけた。

何人かの腹心の社員が彼を諌めたようだが、

「バカとバカと言って、何が悪い?」

と彼は言っていた。彼から見れば、確かに殆どの社員は「バカ」であったのだろう。

 

だが、数年後、彼の会社の成長はストップした。理由は単純だった。競合が増え、市場が飽和し、他社との差別化ができなくなったことによるものであった。

成長が止まった会社の転落は非常に早かった。停滞した会社からは人が次々と流出し、競合に流れた。

「いままでは社長のいうことが正しかったからついてきましたが、もうあの人のいうことは正しくないですよ。」

社員は口々にそう言って、会社を辞めていった。

「今じゃ、あの人がバカですよ」

ある社員はそう言って会社を去った。

 

 

「「バカ」と人にいうことは一種の怠惰だよ。」

私の知己である学者はそう言った。

「要するに、人を「バカである」と定義することにより、その人の言っていることをシャットアウトしようとする行為だから。」

 彼は続ける。

「バカという言葉が便利すぎて、思考が止まるんだよ。」

私はその発言の真意が気になったので、彼に説明を求めた。

「確かに、その人を「バカ」と決めてしまえば、それ以上その人の発言を吟味する必要がなくなる。だって、その人は「頭が悪い」のだから、その人の発言はすべて聞く必要はない。」

私は頷く。

「でも、ハイエクが言うように、「すべての個人が、自分以外のあらゆる人に対して、何らかの優位を持っている」のだから、「バカ」という言葉を用いるのは適切ではない。その人の言うことを否定したいのであれば、「その意見は間違っている」と根拠をあげればいいだけだ。それを怠っているから、怠惰、という表現を使った。」

 

 

 

 

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