「なぜ、努力をしなくてはいけないのか?」と、ある中学生が大人たちに聞いていた。
大人相手であれば適当な答えも許されるのだろうが、中学生相手では軽はずみなことも言えない。どう答えるべきなのだろうか?いや、そもそも努力が必要だというべきだろうか。
そこである年配の方が会話に入った。中学生は
「なぜ、努力をしなくてはいけないの?」と、年配の方に聞く。
その方は優しく答えた。
「努力がイヤなのかい?」
「イヤじゃないけど……」
「なんでそんなことを聞くんだい?」
「もっと勉強しないとダメだ、努力しないとダメだ、って、いつも父と母に言われるから。」
「なんで努力しないとダメなのか、疑問に思ったということかな?」
「そう。」
「お父さん、お母さんはなんて言ってる?」
「努力しないと、自分のなりたい職業につけないぞ、って。」
「そうか、お父さんお母さんは正しいね。」
「でも僕、勉強はあまり好きじゃないよ。それに才能のある人にはいくら努力しても勝てないでしょ。」
「なんでそう思ったの?」
「うーん、友達とかみんなそう言ってる。マンガとかも、結局才能がある人が勝ってる話ばかり。」
「そうなんだ。」
「うん、結局才能のあるなしで決まるなら、勉強しても、努力してもあまり意味がないんじゃないかって。」
「キミは、自分に何かの才能があると思う?」
「わかんない。多分、そんなに勉強もスポーツもできる方じゃないから、才能はないんだと思う。」
その子はなんとなくしょんぼりしている。
年配の方は言った。
「そうか、それじゃ私から幾つかいいことを教えてあげよう。一つ目、学校では才能はわからない。」
「どういうこと?」
「学校で教えてくれることは、所詮「時間さえかければだれでもできること」を教えてくれているだけ。そんなものでは才能はわからない。」
「そうなの?」
「そう。才能のあるなしは、学校を卒業して、社会に出て、オリジナリティの求められる仕事をしてようやくわかる。今やっているのは、学校の与えた課題をうまくこなせるかどうかということだけ。」
「ふーん。」
「今の時点で与えられている課題なんて、才能のあるなしのモノサシとしてはつかえない。今成績が良い子たちだって、大学に行って、会社に入ったら、ほとんど普通の人たちだよ。そんなものは、才能ではない。」
「そうかあ、そうだよね。」
「二つ目、キミが努力をやめたら、まわりはキミを助けない。キミが努力するなら、まわりはキミを助けるだろう。」
「どういうことですか?」
「要するに、みんな怠け者を見るよりも、頑張っている人を見るのが好きだってことだよ。」
「結果が出なくても?」
「結果が出なくてもだ。「頑張ったけど結果が出なかった」っていう物語は死ぬほどある。才能があっても、頑張らなくちゃならないライバルの存在が、物語を面白くするんだよ。」
「うん。わかる。」
「お父さん、お母さんはキミががんばっていなくても、愛情で助けてくれるかもしれない。でも、他人は違うんだ。」
「そりゃそうだよね、僕だって頑張っている人のほうを応援してくなるよ」
「三つ目、「逃げグセ」は、一度つくと治りにくい。」
「逃げグセ……」
「キミは、努力以前に勉強から逃げている。そうじゃないかい?」
「そんなことは…ないと思う…」
「本当?それならいうことはないけど。勉強くらいで逃げてたら、なりたい職業はおろか、何もできないで終わってしまうよ。
大人になればもっと大変なことがたくさんある。勉強くらいで逃げたら、なんでも一生逃げ続けることになる。そんな情けない人生をおくりたいのかい?
もちろん、逃げて構わない時もある。逃げたほうがいいこともある。でも、学校の勉強程度で逃げるなら、もうどうしようもない。」
中学生の子は、疑問を持ちつつも、なんとなく当を得たようだった。
彼は言った。
「でも、勉強しても成績が上がらなかったら…?」
「約束しよう。逃げずに勉強しただけで、人生には大きなプラスだ。まあ、勉強ごときだ。成績は絶対に上がるけどね。」
「じゃあ、うまく勉強をするやり方を教えて下さい」
「いいとも、何の教科かな?」
「努力以前に、逃げている」という言葉が、妙に記憶に残った。
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