「成果出しているのに、僕の給与全然上がらないんですよ。まあ、少しボーナスは出ましたけど」という若手がいた。

「多分、利益ベースなら自分は他の人の10倍は稼いでます」という彼の鼻息は荒い。

「やっぱり日本人はできる人を高く評価しないんですよね。出る杭は打たれる、っていうか。」

彼は言う。

「あーあ、外資系にでも転職しようかな。あっちは青天井でしょう。年収1千万、いやもっと出す会社があるはず。」

 

彼の言うことは正しいのだろうか。それとも、会社が正しいのだろうか。

 

単純化して考えよう。雇うのにかかる手間は同じくらいとする。

利益を月に10万円出す、フツーの人を100人雇うのと、

利益を月に1000万円出す、卓越した人材を一人雇うのと、どちらが良いか。

 

色々な考え方があると思うが、経営者であれば上を選ぶひとが多いだろう。

なぜか。

単純である。「稼ぎ口は、分散させておくほうが良い」からだ。下は、卓越した人材が突然「やめます」と言ったり、病気になったり、家族の都合で引っ越したり、そう言った事自体が全てがリスクとなる。

要するに、実質の経営を彼に握られることになるのだ。それは経営者として許容できないだろう。

月に1000万利益を出しても、仕組み化をしようとせず、周りの社員をバカにするなど雰囲気を悪くするようなら、その社員を排除する経営者もいる。

だから、上の若手は経営者にすれば「嫌なら独立すればいいじゃない」という話にすぎず、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

言い方は悪いが、逆に10万円稼ぐ社員が一人辞めたところで「いくらでも替えがきく」ので、それを目指して経営者はできるだけ「一人ひとりの社員に依存しない仕組み」を作りたがる。

だから、「一人で1000万利益を稼ぎだす社員」よりも「10万円の利益を安定して100名に出させるマネジメントができる管理職」を、経営者は重用する。

これが「マネジメントができるようになってほしい」という経営者の意図だ。

 

だから「エース社員」は会社にとっては両刃の剣である。扱いづらいのだ。

 

 

だが、「そんなこと言っても、能力の卓越した人材がいなければ今の世の中で、勝っていけないのでは?」

という反論もあろう。つまり、プログラマーや金融スペシャリスト、コンサルタント、マーケター、など「専門能力の高い人を少数精鋭で」という考え方だ。

 

これは上の経営方針と矛盾しない。経営者がほしいのは、言い方は良くないが「卓越した部品」としての人材で、一人で稼いでしまう人ではない。

「うちに居たほうが、能力の高い仲間と、やりがいのある仕事が提供されるよ」といって、経営者は人材を引き止める。

良いチームで働くことは、自らの力を発揮するため、専門家たちにとっても重要なのだ。

結局のところ、専門家は一人では稼げない。また、稼げる人物はどうマネジメントしてもいずれ出て行く。

 

残念ながら「成果を出したらそれだけ欲しい」という上の稼ぎたいという若手は、独立するか、成果を出せない時にはクビになるリスクを取って、外資系で成果を出し続けけたほうが稼げるのではないだろうか。

 

 

余談だが「稼ぎ口を分散させる」のは、人事管理上の話だけではない。経営者は常に「突然売上が下がるリスク」をヘッジしようとする。

例えば、できるだけ大口客に頼らず、顧客を分散させようとする。これを極めればプラットフォーム化を志向することとなる。

 

経営者だけでなく、個人でもリストラや減俸リスクをヘッジしたい時には「稼ぎ口の分散」は重要だ。

その場合は給与収入だけではなく、副業をできるだけ手広くやっておくのが正しい選択だ。

 

 

「稼ぎ口を一つに依存しない」という考え方は、だれであれ、常に持っておいて良いのではないだろうか。

エース社員に高い給与を払わない、というのはそれと同じである。

 

 

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Martín Vinacur