最近、何かと長時間労働は問題になる。
「長時間労働は悪だ」
「効率よくやろう」
「残業してはいけない」
全くそのとおりだ。長時間労働は体に良くない。来る日も来る日も仕事ばかりしていて、ある日突然体調不良を訴え、そのまま会社に来なくなった人もたくさん見た。
だが一方で「若い時はワークライフバランスなんて考えず、たくさん働け」という人もいる。なぜこれほど食い違うのだろうか。
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前職では、長時間労働は常態化していた。少ない日でも1日12時間、多い時には18時間働く生活を続けた。
また、面接や様々な会議は、平日は皆が集まれないため大抵土曜日に設定されていた。
日曜日は1周間の中で唯一休める日だが「合宿」ということでテキストの作成やコンサルティングツールの制作などの仕事が入る時もしばしばあった。
つまり、人生は働くか、寝るかのどちらかだった。
当時、長時間労働が「良くない」という認識はほぼゼロで、それは普通だった。
恐らく、経営陣も同じような生活をしていたからだろう。私の上司は私より遥かにワーカホリックな人物で、自宅は郊外にあったが、あまりにも仕事にのめり込み過ぎて、1週間に何度も会社の近くのビジネスホテルで宿泊するほどだった。
我々の目の前には常に、膨大な仕事があった。仕事を極限まで効率化しないと絶対に回らない量の仕事だ。
もちろん仕事は量だけでなく質も追求された。クレーム等は許されなかった。
一つ一つの顧客に対するアンケートが厳格におこなわれ、満足度の低い仕事については徹底的に会議で吊るしあげられた。
その頃は仕事でヘマをしないか、勉強会で吊し上げを喰らわないかという恐怖の中で仕事をしていたように記憶している。
あの頃、成果を出すために長時間労働がほんとうに必要か、と問われれば、間違いなくイエスと答えていただろう。
結局、能力は皆それほど変わらないので、成果に差がつくのは仕事の量の問題だった。
一方で疲れは溜まる。まぶたの痙攣が止まらず、友人には「ノイローゼ」と言われた。確かにそうだったのかもしれない。
だが、慣れとは恐ろしいものだ。5年ほどそれをやると「なぜあの時苦労していたのか」と不思議に思うほど仕事が早くなる。
しかし、残念ながら仕事が早くなっても、楽になることはなかった。上司は常に大きなチャレンジを必要とする目標を設定した。
彼から出てくる目標は常に「そりゃ無茶です」といいたくなるようなものばかりだった。その時その時の全力、達成できるかどうか全くわからないものに常に取り組み続けることが課せられていた。
「できるかできないか、ギリギリのラインに挑戦する」ことでしか、能力の飛躍的な向上は見込めない。できるようになればなるほど、負荷を上げないと成長しない。
上司は現状に安住することを良しとしなかった。
そして、その状況を耐え抜けば、得られるものはそれなりにある。
無謀と思えるような目標であっても、上司や同僚と知恵を出し合えば時として達成することもできる。
私が「できるわけがない」と思っていた目標を、知恵を出し合うことでクリアする、私がコラボレーションによって、個人の能力を超える仕事ができると信じるのは、この体験によるところが大きい。
また、個人の能力ほど、当初の印象があてにならないものもない、と悟ったのもこの辺りだ。
部下を持つようになり、仕事を与える側になると、頭の良さや機転なども重要なのだが「諦めないで粘り強くやり続ける」人間がもっとも成長した。これも私にとっては貴重な体験だった。
極限の状況で人は「化ける」のだ。
そして、そういった仲間たちと困難な目標に向かい、それを成し遂げることは、仕事の醍醐味であることもわかった。
長時間労働を可能にしたのは、その高揚感と充足感であった。
「1日に8時間だけ働く」という生活では、この風景を見ることがかなわなかったのも確かだ。
このようなことを経験した高名な経営者、できるビジネスパーソンの中には、今の風潮を鑑みて、表立っては言わないものの長時間労働を「絶対必要」と思っている人も多いだろう。
実際、あの高揚感と充足感は何者にも代えがたい。そしてあの劇的に成長するイメージを知っていれば、長時間労働が「超できる人」になる道であることもわかる。
しかし、私は思う。
そこまでして「できる人になりたい」といえる自体が、一種の特権かもしれないと。それは幸運を持つ人間の奢りであり、全ての人に等しく機会があるわけではない。
人にとても勧めることが出来ないし、誰もが得るもの無く挫折する可能性がある。
だから「仕事を楽しめ」という一言は、実は残酷であり、傲慢かもしれないとこの手の議論を見るたびに思うのだ。
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(Zoriah)