ある会合で、学生と若手の社会人が議論をしていた。

「好きなことを仕事にしたいんです」という学生と

「好きなことを仕事にできる人なんてほとんどいない。現実を見たほうが良い」という社会人だ。

 

だが、しばらく聞いていると、どうも話が噛み合わない。

 

「好きなことを仕事にして何が悪いのか。あなた方は嫉妬しているだけだ」という学生、

一方で社会人の「好きなことw、食っていけないよw」という冷笑。

議論にならない。

 

 

そこへ一人の経営者が割って入る。

「盛り上がってるね」

 

「経営者だったらわかりますよね、好きなことをして稼ぐって人の気持ち。」と学生

「経営者だったらわかりますよね、世の中は厳しいってこと。」と社会人

お互いが譲らない。

 

 

どうなんですか、と両者から詰め寄られる経営者。

彼はちょっと考えてから、口を開いた。

 

「んー、そうだねー。ふたりとも正しいよ。」

 

「いい加減なこと言わないで下さい」と、学生。

「そうですよ。」と社会人。

 

 

経営者は彼らに向き直った。

「じゃまず、学生さんに質問なんだけど、「好きなことを仕事にする」上で、

困難なことって何だと思う?」

「……食べていくことです。」

「だよね。」

 

「それから社会人のアナタに質問なんだけど、好きでもない仕事を何十年もして幸せだと思う?」

「……いえ…。」

「だよね。ふたりとも正しいじゃない。」

 

 

学生と社会人は口をそろえて言う。

「いや、そういう話じゃないですよ。まじめに考えて下さい。」

「ごめんごめん、まあ、議論は大事だよね。」

 

学生と社会人は口をそろえて言う。

「でも、本当はどうすべきなんですか?好きなことを仕事にすると食えない、でも

好きでもない仕事をずっとするのはつらい。」

 

 

経営者は言った。

「そうだね、すこし話をしよう。」

 

 

 

 

あるところに、一人の学生がいた。彼はずっと「マンガ家」になりたかった。

だが、彼には残念ながら才能がなかった。学生時代から幾つもの賞に応募したが、ことごとく落選。だが彼は諦められなかった。

 

マンガ家になりたいので、就職せずに創作活動をつづける、と両親に相談したが両親は猛反対。諦められない彼は、結局家を出て、アルバイトをしながら描き続けた。

これが映画や小説なら「ある日突然、名編集者の目に止まってデビュー」とかなるのかもしれないが、現実は厳しい。彼のマンガは全く読まれなかったし、出版社から声がかかることもなかった。

 

2年間、彼はマンガ家になろうと頑張ったが、アルバイトをしながら創作活動をすることに精根尽き果てて実家に頭を下げて戻ることにした。

実家の両親は「きちんと就職をすること」を条件に家に戻ることを許した。

 

彼は就職活動を始めた。「2年間何をやってたの?」と散々言われながらも、持ち前の粘り強さで活動を続けた。かれが仕事を見つける上で重視したのが、「何かしらの形でマンガと関わること」だった。

彼はそれほどマンガを愛してたのだ。

 

そして彼はある面接で、「うちはマンガはやってないんだけど、絵がかけるなら少しイラストの仕事に携わってみない?契約社員でいいなら、ウチで雇うよ。」といわれた。

彼は迷ったが、背に腹は代えられない。他に雇ってくれる会社もなさそうだ。彼は「イラスト」の仕事を始めた。その会社には良いイラストを書ける人がいなかったので、彼のスキルは重宝された。

 

1年間、彼はとにかく一生懸命イラストを書いた。その甲斐あって、彼のイラストはそこそこ評判も良かった。お客さんから「あなたのイラスト好きなんですよ」という言葉ももらえた。

彼は嬉しかった。初めて自分の絵が世の中に認められたのだ。だが、自分の目指すマンガとは程遠い。彼は夢を諦めたくはなかったが、現実の生活はそれによって成り立たないことを知っていた。

 

それから半年後、彼は「正社員にならない?と誘いを受けた。一生懸命やる姿と、イラストがお客さんからの評判が良いのとが、まわりの皆まで元気づけた、との話ももらった。」

彼は迷った「マンガ家になる夢はもう潰えるのか……」と。

 

だが、彼は今の仕事も楽しめるようになってきていた。

迷った末に上司に相談すると「仕事しながら、マンガを描けばいいじゃない。自分の作品を作り続ければいつか見てもらえるかも」とも言われた。

彼はその望みが薄いことは知っていたが、食べていかなければいけないことも知っていた。そこで彼は正社員になり、「火曜日、水曜日、木曜日の夜と、土曜日」を自分の創作活動に充てることにした。

といっても、マンガの投稿サイトに自分の作品を少しずつアップするくらいだ。

「それくらいなら続けられる」と彼は考えた。

 

数年後、彼の投稿するマンガには少しずつファンがつき始めていた。

「面白い」と言ってくれる人もいる。「プロ並み」とは行かないが、彼の書いた絵が何度かネット上で評判になったこともある。

現在でも彼は仕事を続けながら「自分のやりたいこと」を追求する日々だ。

 

 

 

 

「彼の話、どう思う?」

経営者は言う。

「好きなことは、やろうと思えばいつでもできる。だからいつでもやればいいんだ。それについて、誰一人ケチを付ける権利はないはずだ。

でも「好きなことをしたい」って言ってる若い人のなかには単に「働きたくないから」という理由だけで好きなことをやりたい、という人もいる。そんな人を見ると、「社会をナメるな」といいたくなる人もいるんだろうね。

単にそれだけのことじゃないかな。」

 

 

 

 

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