「人望」は重要だと言われる。少なくとも名経営者と言われた人物は、多くの場合人望を備えていたという。
松下幸之助や、本田宗一郎、井深大、土光敏夫といった人々には、そういったエピソードは事欠かない。
しかし、一見当たり前のような話であるが、「人望がなぜ必要なのか」についてはあまり語られることはない。
コミュニケーションスキルや、数字を扱う力、語学力などはセミナーや学校などに通って勉強することで強化することが可能だが、「人望」はとらえどころもなく、扱いづらいからなのかも知れない。あるいは「人望をつける」ということを言うこと自体がはばかられるものであるかもしれない。
しかし、それでもなお「人望」が必要であることには変わりない。特に組織を束ねる人間には。
なぜか。
それは、「会社は調子が良い時よりも、調子が悪い時のほうが多い」からだ。
どんな会社であっても、無限に成長を続けることは出来ない。いずれ停滞し、時にその業績は深く落ち込む。これは不可避であり、「始まりがあるものには全て、終りがある」から当然だ。
その組織の調子が良い時には人材も、お金も、自然に集まってくる。経営者は「人望」など気にする必要はない。
成果が出ている組織のトップは讃えられ、持ち上げられる。
翻って組織の調子が悪くなってきた時、停滞している時どうなるか。
あれほど「組織に忠誠を誓っている」と述べていた社員はすぐにいなくなる。あれほど世辞を述べていた記者からもそっぽを向かれ、お金は引き上げられてしまう。
そんな時、「最後まで残ってくれる社員」「会社の業績が停滞してる時に、前向きになって一緒にやってくれる社員」がいるかどうかは、経営者の人望で決まる。
人望があれば、社員はむしろ、「辛い時ほど一緒にやりたいです」と言う。
経営者の人望があるかどうかがわかるのは、そういう「いつか来る苦難の日」になってからである。
だから、成功に浮かれてはいけない。
ビル・ゲイツは「成功を祝うのも良いが、もっと大切なのは失敗から学ぶことだ」という。
うまく行っている期間は短いが、人望をつくるには気の遠くなるほどの時間がかかる。
間近に迫る「雨の日」に備えて、奢らないこと。これは、言うほど容易いことではない。