紀元前300年頃、古代ギリシャにユークリッド(エウクレイデス)という数学者がいた。彼は数学の歴史上、もっとも重要な書物の一つである「原論」を著した人物であり、「幾何学に最初に体系を与えた偉大な人物」として知られている。
「原論」は、その後何千年にもわたって通用する真理として、今でもなお、輝きを放っていることから、「聖書を除けば、この本ほど多くの人に読まれ、多くの国の言葉に翻訳された書物はないだろう」と、評せられる。(出典:小島寛之 数学でつまずくのはなぜか)
では、ユークリッドは「原論」の中で一体何を成し遂げたのか。
彼が作り上げたのは、現代風に言えば、「幾何学まとめ」である。それまでに知られていた様々な幾何学上の発見を集大成したのだ。しかし、これだけでは単に「まとめた」だけにすぎない。
彼の偉業は「まとめた」それらの発見を、「体系化した」ことにある。具体的に言えば、雑多な数々の発見を、ごく少数の法則にのっとって、整理したのである。
”ユークリッドの偉業というのは、幾何を「体系化」したことである。つまり、幾何の法則を、簡単なものを出発点にして、複雑なものを簡単なものから導く、という形式で整列させたことだ。
このとき、「ただそうである個別の事実」という風に事前に認める図形の法則は、ごく少数(具体的には5個)だけとし、残りの膨大な法則は「論理によって順々に証明する」という手続きを行った。
このようにして導かれたものが「定理」と呼ばれるものである。出発点の5個の法則は「公理」といい、公理とそれらから論理的な手続きで導かれる定理を樹形に編み上げたものを「公理系」と呼ぶ。
ユークリッドは、当時知られていたすべての図形の法則を1つの公理系に仕立てて、それを「原論」という本に著したのである。”
(出典:小島寛之 数学でつまずくのはなぜか)
単純に言えば、現代使われている証明の方法や、数学のあり方は、ユークリッドが創りあげたものなのである。「原論」は科学を学ぶもの全てにとっての経典、すなわち「聖書」である。
ユークリッドが発見した公理、すなわち、「全ての幾何学の法則はここから導かれる」という約束事は以下の5つだ。(出典:Wikipedia)
- 第1公準 : 点と点を直線で結ぶ事ができる
- 第2公準 : 線分は両側に延長して直線にできる
- 第3公準 : 1点を中心にして任意の半径の円を描く事ができる
- 第4公準 : 全ての直角は等しい(角度である)
- 第5公準 : 1つの直線が2つの直線に交わり、同じ側の内角の和を2つの直角より小さくするならば、この2つの直線は限りなく延長されると、2つの直角より小さい角のある側において交わる。
これを使えば、ピタゴラスの定理、チェバの定理、メネラウスの定理、その他学校で習うような有名な定理全てを導くことができる。
なお余談であるが、上の公理のうち5つ目だけが「複雑過ぎる」という理由から、「本当に公理なのか?」と疑問を持たれ続けていた。
そして、ついに19世紀に上の第5公準が成り立たないような時に成立する幾何学が発見され、「非ユークリッド幾何学」と呼ばれ、別の体系を作っている。