就職活動も佳境に差し掛かっている。そして、例年と変わらず大手志向の学生が多いのだろう。
「安定がほしい」
「社会的地位がほしい」
「ちょっとだけ良い給料がほしい」
彼らが大手を目指す理由は様々だ。
しかし、当然のことながら、逆の志向を持つ学生もいる。「中小、ベンチャー、スタートアップ企業で働きたい」という学生たちだ。
そして、私がつい先日会った方も、そんな中小企業志向の学生だった。
彼は、「中小企業とは、どんな場所なのか」に関する情報を得たいと言い、私に「中小企業の社長を紹介して欲しい」と、コンタクトを求めてきた。
もちろん私は面白い学生が大好きなので、快くそれに応じたのである。
彼と溜池山王で落ち合い、我々はある喫茶店に落ち着くと、彼は早速、私に同行していただいた経営者に質問を投げかけた。
「中小企業と、大企業で働くことのちがいが知りたいんです。」
「なるほど。」
「中小企業のほうが、若い時から任されたり、裁量がある、って言われることがありますが、本当でしょうか?」
社長は、苦笑しながら「正直に答えていいかい?」と言う。
学生は「もちろんです」と答える。
「それは、企業規模と関係ないと思うよ。どっちかって言うと、会社のカルチャーのほうが大きいんじゃないかな。」
「そうですか…。」学生はがっかりしたようだ。
「それじゃ、二つ目の質問ですが、中小企業のほうが、いろいろなことが出来て成長できる、って聞きますけど、それは本当ですか?」
社長は「うーむ」といって、答えた。
「まあ、人が少ないからいろいろなことをやらされるかもしれないね。でも、成長できるかどうかは、別の話じゃないかな。それは事業内容とか、周りの環境にもよるし。あまり企業規模は関係ない気がする。」
学生はまたも失望したようだ。
「それじゃ、三つ目の質問です。中小企業のほうが、スピード感がある、っていうのはどうでしょう?」
社長はすまなさそうに、「停滞している中小企業の方がはるかに多いんじゃないかな」と言った。
学生はとても失望したようだった。
そして、社長に「じゃあ、中小企業に行く理由なんて、無いじゃないですか…。」と小さな声でいう。
社長は、それに対してはっきりと、「そうだよ」と言った。
学生は黙っている。
「でもね。」と、社長は言った。
「大企業では出来ないことが、一つだけあるんだよ。」
学生は、驚いたようだった。
「な、なんですか?ぜひ教えて下さい!」
社長は、おもむろに語りだした。
「いいかい、基本的に大企業の社員は、皆、「取替え可能な人」なんだ。」
「どういうことですか?」
「大企業の社員は歯車だ。経営者ですら、「他に替えはいくらでもいる」んだよ。そうでなければ、大きな組織として成り立たない。全員が取り替え可能だからこそ、「大企業」でいられるんだ。」
「はい。」
「でも、中小企業ではそうではない。社長も、社員も、そんな簡単に取り替えがきくわけじゃない。悪く言えば、「属人的」なんだよ。」
「そんなもんでしょうか。」
「もちろん、社長はそれを嫌うから、全員の仕事を「出来るだけ、取替え可能にしたい」と思っている可能性は高いし、簡単な事務や単純労働は取り替えがきくのは事実だ。でも、経営者に近づけば近づくほど、その人は経営者にとって、「かけがえの無い人」になっていく。社長と二人三脚で会社を運営する立場になる。」
「…。」
「中小企業で「かけがえの無い人」を目指すか、大企業で「取り替え可能な人」になるか。まあ、中小企業で「取り替え可能な人」になってしまう可能性もあるけどね。そうなってしまうかどうかは、社長との相性によるかな。」
「…。」
「経営者にとって、「かけがえの無い人」になる自信があるなら、中小企業でチャレンジしてみてもいいんじゃないかな。仕事は面白いと思うよ。まあ、無難に行くなら大企業で安全に行くのも手だけどね。オレは、大企業で取り替え可能な人になりたくなかったから、最初は中小企業に入ったけどね。」
その学生は、「ありがとうございました、いろいろ見てみます」と言って、その場を去った。
社長は「悪いことしちゃったかな」と言っていたが、一言、「うちの部下も、かけがえの無い存在になってほしいよな」と、ポツリと言った。
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