2221679678_517d7928af_z私は前職ではセミナー講師として「交渉術」を教えていたことがある。

某大手製造業の顧客からの依頼によって実施していたのだが、その頃、セミナーのメニューには「交渉術」というものはなかったので、自社でテキストを作るところから始めた。

 

「交渉術」のセミナーを作成するにあたって、本や競合他社のセミナーなど、かなりの数を参照し、さらに現場の営業マンなどへのヒアリングによって「交渉で行われていること」を洗い出し、テキストを作っていく。

そうして数多くの事例に触れたのだが、結論から言えばほとんどのテキストで語られていることはいわゆる「交渉の話術」についてであった。

 

つまり、話術を駆使して相手の腹を探り、「どこまでなら相手に妥協させることができるか」を競い合うこと。これが交渉術の骨子であった。

もっと平たく言えば、「値切り術・値上げ術」と言っても良いかもしれない。

 

しかし、一方で現場で必要とされる「交渉術」は上のようなパワーゲームになるケースは極めて少なかった。上のような交渉術を使ってしまうと、顧客との人間関係を損ねてしまい、長期的な関係になるのが難しいのだ。

私は相手と戦争をしているわけではない。だから、現場で必要と思われている「交渉術」は、相手に勝つ方法、すなわち値切り術、値上げ術ではなかった。

 

では、現場で求められた交渉術は一体何だったのか。実はそれは、ある営業の方の発言を借りれば「勝ち負けをウヤムヤにする技術」だった。

勝ち負けをウヤムヤにする技術は、次の5つの要素から成り立つ。

 

 

1.相手に「勝負をしている」と思わせないようにする

こちらが相手から有利な条件を引き出そうとし、相手はこちらに妥協を迫る、という構図は避けたい。どうしても対立が生まれる。よく言われる話だが、勝負ではなく、問題解決を相手と一緒に行っている、という意識が生まれるようにする。

 

2.勝負に持ち込もうとしている相手から逃げる

 1.ができれば理想なのだが、駆け引きや勝負事が好きな人もいる。そのような方とできるだけ取引を行わないようにする。一般的に、勝負を望む人々とは長期的な関係を築くのは難しく、その取引のメリットも低い。それは、あなたの顧客ではない。

 

3.第三者に裁定してもらう

信頼の置ける第三者を巻き込む。当事者だけでは納得感の生まれにくい状況を解決するための選択肢として有効。

 

4.利害関係者をできるだけ増やす

 1対1であれば対立構造が生まれやすいが、利害関係者を出来るだけ増やしてしまうことで対立ではなく全体の「雰囲気」で物事が決まるように誘導する。

意思決定のスピードが落ちるデメリットはあるが、相手側の中で勝手にパワーゲームをやってくれる可能性も高い。

 

5.複数の案件をまとめて考える

 単一の案件、局所的な交渉では相手の言い分を受け入れてしまう。が、長期的にはこちらの利益にもなるように動く。例えばロックインするような動きや、単価の調整がしづらい契約内容にしてしまうなど。

 

 

実際、交渉を行っている当事者には目の前のことしか見えづらくなっているが、現場でほんとうに必要とされるのは、次にどう動いたらよいかという選択肢であった。

交渉の行方を決めるのは話術ではない。手持ちの行動のカードの多寡が行方を決める。

 

 

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(Photo:Pulpolux !!!