前回は名古屋大学でコンクリートを研究する丸山さんのお話をご紹介しましたが、今回は丸山さんの元で研究活動を行っている学生の方々をご紹介したいと思います。
右から順番にご紹介します。
右端は、小寺周さんです。現在学部の4年生で、コンクリート中の水の移動について調べています。わかりやすく言うと「コンクリートがどのくらいのスピードで乾いていくかを、温度の条件を変えながら調べる」という研究です。
コンクリートの円柱の試験体を用いて、コンクリート内部の湿度を測定するという地味ながら、重要なデータを調査しています。
「なぜこの研究室に入ったのか?」と伺うと、小寺さんは「デザインはちょっと自分には無理だけど、計算は好きなので、構造にいこうかな」とお答えいただきました。丸山研究室は、研究室紹介の際に「大きな視点で経済を考えて自分の研究の話をしている」ところに惹かれたそうです。
右から2番めの方は、栗原諒さん、現在は大学院修士課程の1年生です。現在はコンクリートの混和剤である収縮低減剤がなぜ効果があるのか、セメントペーストを用いてその理論を検証する研究を行っています。
現在、これまで「正しい」とされてきた理論の再検証に取り組んでおり、成果が期待されます。
この研究室に入るまではコンクリートの知識を持っていたわけではないですが、研究室訪問を行った際に「構造物の解析に物性をつかうことができるようになれば、あなたの研究の成果がとてもマクロな貢献をする」と言われ、この研修室に入ったそうです。
右から3番目の方は小川浩太さん、現在は栗原さんと同じく修士課程の1年制です。「乾燥していくコンクリートの挙動を再現する解析」を行っています。
コンクリートは乾燥するに従い内部の水分が移動し収縮するため、そこにひび割れが発生します。そこに力学的な仮想の力を方程式を用いて定義し、ひび割れを再現するモデルを作る、というわけです。
今まで有限要素法による解析は数多くありましたが、物性レベルでひび割れを検討できる研究は少なかったため、楽しみな研究です。
小川さんは建築の学部で製図、設計をやっていましたが、勉強を進めるに連れ、徐々に建築物の構造、材料を意識するようになりました。
建築物というとデザインがもてはやされますが、こういった基本的なところに焦点を当てる研究者は少なく、興味の方向が合致していたため、丸山さんのところで研究をする決意をしました。
右から4番目の方は酒井田智哉さん、修士課程の2年制です。すでに就職活動は終えており、来年の4月からはゼネコンで働くとのこと。
酒井田さんは「コンクリートを早く脱型しても品質を担保するにはどうしたらよいか」を研究しています。
丸山さんの回でご紹介したように、コンクリートは早く乾かせば良い、というものではなく、できるだけ長時間湿らせておくほうが硬いコンクリートができます。
しかし、工期の都合上、早く脱型(コンクリートの型枠を外すこと)したほうが、工事のコストは安く済みます。そこで、脱型した後も「水をかける」などの作業をすることで強度を高めることができるかどうかを検証しています。
酒井田さんは実家が工務店ということもあり、学部1年生の時からデザインに興味がなく、この道に進むことを決意していたそうです。
右から5番目の方はジャン・インギさん、修士課程の1年制で、韓国からの留学生です。彼は「マスコンクリート」の解析をおこなっています。
コンクリートは固まるときに熱を出しますが、その熱でわずかに膨張します。普段はそれほど気にすることは無いのですが、ダムや橋などの巨大構造物はコンクリートの表面積の割合に対して体積が大きいため、中に熱がこもりやすく、中と外の温度差によってひび割れができることもあります。こう言ったヒビ割れの起きる可能性のあるコンクリートを「マスコンクリート」と呼びます。
ひび割れは、構造物の脆弱性となりますから防がなければなりませんが、「どのように発生するのか」のメカニズムを知らなければ防ぐことはできません。
ジャンさんは、その予測をするためのモデリングを行い、モデリングの精度を上げるために実験値と、モデリングの誤差を出しています。
「なぜ日本で研究をしているのですか?」と聞くと、彼は「大学を決める時、4年国費で留学すれば月12万、お金もらえ、さらに学費を全部出してくれるから」と教えてくれました。
最後の方は櫨(はじ)辰也さん、学部の4年生です。
櫨さんは、湿度と、セメントと水の配合割合を少しずつ変えながらセメントペーストを使い、脱型の時期と、縮み方の比較を行っています。
セメントペーストは、長く型に入れておくと強度は出ますが、縮みます。逆に型に入れる時間が短いと縮みにくいですが強度は出ません。
今のところ、水が少ないセメントほど、養生期間が短くて済むということがわかっていますが、セメントの種類を変えていろいろ試しているところだそうです。
「なぜこの研究を?」と聞くと、「もともと材料に興味がありました。でも、コンクリートのような一般的な材料であっても強度の仕組みや物性について、メカニズムがあまりわかっていないことに驚いたからです」と答えていただきました。
身の回りには無数のコンクリート建造物があり、我々の生活はコンクリートなしには成り立ちません。彼らのような研究者が、世の中を変えていくのでしょうか。とても楽しみです。
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