「自分の代わりはいくらでもいる。だから、いつでも辞めることができる」と言うと、ネガティブだと思うだろうか。
一般的に、会社員という立場でこのように考えることは「責任感がない」と判断されるため、たとえ思っていたとしても心に秘めておいて方が良いとされている。
“でも、実際のところ、どうなの?”
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「自分がいなくなったら会社は回らない」
本当にこのような会社があったら、その会社に勤めたいと思うだろうか。
「その人がいなければ会社が回らない」という状況は、人に依存しすぎていて、会社の仕組みとしては好ましくないのではないか。
そうだとすると、良い会社ほど「自分の代わりは誰にもできない」という状況にはなりえない。
もちろん、所属している会社員がどう思うかはまた別の問題であり、あくまで実際の仕組みとしてどうなのか、という話である。
実際は、あなたがいなくなったら、他の人があなたの代わりを務めるだけ。でも、責任感は持ってほしい。「自分の代わりは誰にもいない」という気持ちで仕事に取り組んでほしい。そんな矛盾した思いを、経営陣の人たちは抱えているのではないだろうか。
以前、社会人の先輩に言われたことがある。
「自分の代わりは誰にもできないという気持ちで仕事に取り組むことのメリットは、大きいと思うよ」
なるほど。「実際に自分の代わりがいるかどうか」の事実はこの際どうでもいい。マインドの問題なのだと。
たしかに、「自分の代わりはいくらでもいる」と思うか、「自分の代わりは誰にもできない」と思うかでは、仕事への取り組み方が変わってくると思う。そして、後者のマインドを一般的に「責任感」と呼ぶのだろう。
「責任感を持ちましょう」とよく言われる。学生の頃も言われ、社会人になるともっと言われる。それほど、「責任感」は大切なものらしい。
当然だ。責任感のある人とない人だったら、どちらに仕事を任せたいか。当然、責任感のある人に仕事を任せたい。そんなこと、わかっている。
わかっているけれど、あえて「責任感を持つことのデメリット(責任感がないことのメリット)」の話をしたい。
責任感はストレスを増幅させる可能性がある。逆に言うと、責任感から解放されれば、ストレスからも解放される可能性がある。
そう、つまり「自分の代わりはいくらでもいる」というマインドは、「責任感がない」というネガティブな印象を与える一方で、自分に逃げ道を用意することでもあり、ストレスが軽減される効果があるということだ。
アベルソン博士は、「ペンタガストリン(※)」という体内にストレスを作り出す薬を使って、次のような実験をした。
この薬を治験者に点滴するのですが、あらかじめ「あなたの体はストレスを感じます。つらくなったり、吐き気がしてきたら、手元のボタンを押してください。そうすれば点滴が止まりますから」と伝えておきます。
すると、手元にボタンがあるときは、ストレスホルモン量があまり増えないというのです。
つまり、「ボタンを押せば、あなたはいつでもストレスから逃げられますよ」と教えてもらうだけで、実際にボタンを押さなくても、ストレスが減じるわけです。
逆に言えば、逃げ道がない状況というのは、本当に怖いストレスだといえます。
(引用:池谷裕二 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!?2010)
「逃げる」という言葉をポジティブに捉える人はあまりいない。「逃げ道を用意するなんて」と批判的なコメントを投げてくる人もいるだろう。
実際に「本気なら、逃げ道なんて用意しないよ」と言われたこともある。「背水の陣ということわざがあるでしょ」って。
でも、本当に逃げるかどうかは問題ではなく、あくまで「逃げ道を選択肢として持っている」ことが重要なのである。それに、実際に逃げたとしても、それが悪いことだと誰が言えるだろうか。逃げるとは、単に今とは別の選択をすることの言い換えにすぎない。
・・・・・・と、ここで新たな疑問が思い浮かぶ。
“そういえば、「責任感」ってありふれた言葉だけど、その有無・質量はどのように計っているんだっけ??”
そう、そもそも「逃げ道を用意しておくこと=責任感がない」ということ自体も、充分疑うことができる前提なのだ。これについては、また別の記事で書けたらと思っている。
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さて、明日からどんなマインドで仕事に取り組もうかな~!?
ではまた!
次も読んでね!
【著者プロフィール】
名前: きゅうり(矢野 友理)
2015年に東京大学を卒業後、不動産系ベンチャー企業に勤める。バイセクシュアルで性別問わず人を好きになる。
著書「数学嫌いの東大生が実践していた『読むだけ数学勉強法』」(マイナビ、2015)
Twitter:@Xkyuuri
ブログ:http://kyuuchan.hatenablog.com/「微男微女」
※ペンタガストリン:胃潰瘍の治療などに用いられるが、多量に注射すると、ストレスホルモンの量が増える。