知人に、いわゆる「できる営業」がいる。彼は3年連続でトップクラスの成果をあげ、何度も社内表彰を受けているほどだ。
なぜ彼はそれほどの成果をあげることができるのか。
彼は、秘訣を聞かれるといつもこのように謙遜する。
「いや、私はそんなに機転のきく方でもないし、学歴もいいわけじゃないのでね…まともに社内で競争しても、多分出世できなかったと思うんです。」
そこで彼は工夫をした。
「なので、私は敢えて「頭のいい人達がやらないこと」をやろうと思いましてね。……いや、たいしたことじゃあないですよ。単純です。「つまらない仕事」をあえて狙って継続する、ってだけなんです。」
だが、つまらない仕事とはなんだろう?
「昔、何かの本で「営業は手紙を書け」というのを見ましてね、こんなすごい人がいたんだ、と思ってそれをやってみたんです。
確かにみんな、手書きの手紙なら結構読んでくれるんですよ。DMやメールはすぐに捨てられてしまいますけどね。
映画「ショーシャンクの空に※1」でも、主人公のアンディが手紙を書き続けて予算をもらい、刑務所の中に図書館をつくりましたよね。ああいうエピソード、好きなんです。
手紙が思ったよりもずっと効果があったので必ず毎日2通、やることにしました。慣れると30分もかからないですよ。
あとは、1社訪問したら、その近くのお客さんをチェックしておいて、少しでもおみやげを持って顔を出す、ってのも、もうかれこれ何年もやってますね。これも結構仕事になるんです。
ちょうどいいタイミングだった、ってよく言われます。
あとは、日報をまじめに書いて、1日の最後に反省する、商談を反芻するんですよ。これももう何年もやってますね。これも15分程度です。
あとは…既存客には3ヶ月に1回は必ず何かしらのコンタクトするってのもやってますね。予定表を作ってるんで、毎日これもやってます。」
真似されないのか、と聞かれると、彼は言った。
「嬉しいことに、トップになれたので、同僚に「どうやってるの?」って聞かれるんですよ。もちろん、全て正直に答えてますよ。
でも、私と同じくらい毎日やっている人は他にはあまりいないですね。まあ、つまらない仕事ですからね。でも、つまらない仕事だからこそ、継続すると差がつくわけですよ。
後輩にも教えると、もっと効率的にやりたい、って言われるんです。いや、効率的にやれるならやってもらっていいんですよ。
でも皆短気ですからね。せいぜい続いて半年ですね。」
なぜそんなに地味なことを続けられるのか、と聞くと彼は言った。
「いや、私祖父が職人なんですよ。で、祖父は「結局色々試してみたけど、昔から伝わっている基本動作には全部意味がある。仕事は基本動作を極めるだけでいいんだ」と言うんです。
働く前は半信半疑でしたけどね、今意味がようやくわかりましたよ。」
彼に、今後の夢を聞くと、彼はこう答えた。
「そうですね、部下を持つことになったら、私と同じことをみんなができるようにするため、工夫が必要でしょうね。
皆、継続が苦手ってわかりましたからね。ゲーム性をもたせたり、自動化できるところは自動化したり。まあ、でも一番大事なのは皆継続ができるように、じっくりと話をすることかもしれませんね。
じっくりやるのは得意ですから、頑張りますよ。」
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※1ショーシャンクの空に