ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)有名な話なのだが、「人間の理性の限界を示した」と言われる例なので、頭の体操として、ここで紹介する。上の書籍で紹介されており、小学生のクイズでよくありそうな内容なのだが、思いがけず深い内容が含まれていたりするので面白い

 

ある島に「ネイブ」と、「ナイト」という二つの部族がいた。その他の人間は一切いない。

 

彼らはある特徴を持っていた。

「ナイト」に属する人は、「本当」であることを一つしか語らない。

「ネイブ」に属する人は「ウソ」を一つしか語らない。

それでは、次の問に答えてください。次の発言はどちらの部族のものか?

1.「最小の素数は、2である」

正解はナイト。

2.「4は奇数である」

正解はネイブ。

 

 

ここまでは簡単だ。では、もう少し話を進めよう。

この島には、「ナイト・クラブ」というナイトだけが入れる会員制の組織ががある。ナイト・クラブに入るためには既存の「ナイト・クラブ」の会員の力を借りて、自分の言っていることが正しいと証明する必要がある。

 

例えば、「最小の素数は2である」と言うナイトをナイト・クラブに入れるためには

既存の会員で「1は素数ではない」という発言をする人と、「2より小さい正の自然数は1しかない」という発言をする人を捕まえてきて、この人を「ナイト・クラブ」に推薦してもらう必要がある。

 

さて、この島にある日

「私はナイト・クラブの会員ではない」という住人が現れた。はたして、この人物を「ナイト・クラブ」に推薦していいのだろうか?推薦するには、どのような発言をする「ナイト・クラブ」の会員の手を借りればいいだろうか?

 

 

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この問題は非常にややこしい。

まず明らかなのが、「ネイブ」にこの発言はできないということだ。

当たり前だが、ネイブはウソしか言えないので、「私はナイト・クラブの会員です」としか言えないはずだ。

 

だから、この人は「ナイト」のはずだ。

しかし、ここで困った事が起きる。「私はナイト・クラブの会員ではない」と発言する人をナイトとして、「ナイト・クラブ」に入会させると、ナイト・クラブに「私はナイト・クラブの会員ではない」と発言するナイトが存在することになる。

明らかに矛盾する発言をするナイトをナイト・クラブに入会させることは出来ない。

 

よって、この人は明らかに「ナイト」であるにもかかわらず、「ナイト・クラブ」の会員として正式に認めてもらえないこととなる。

 

 

ナイトを、「真である命題」、ネイブを「偽である命題」とし、

ナイト・クラブに入会しているナイトを「真であることが証明された命題」と置き換えると、先ほどの「私はナイト・クラブ会員ではない」と発言するナイトは「真であることがわかっているが、証明できない命題」という、不思議なことになる。

 

 

このような命題が存在することを発見したのはクルト・ゲーデルという人物である。

彼は論理学上、最も重要な発見と呼ばれている「不完全性定理」を作り上げた。この定理はコンピュータの発明者である「フォン・ノイマン」らに絶大な支持を受け、「人類の理性の限界を示した」といわれる。

どんなに頭の良い人間にも絶対に解けない問題が存在する、という事を証明した、というのは、誠に不思議な話だ。

 

彼の発見を「神」の存在になぞらえる人もいる。すなわち、「存在することはわかっているが、証明できない存在」ということだ。

人間の理性を超えたものが神だとすれば、論理学のようなものの中にも神を認めることができるのかもしれない。