人を評価する、ということは極めて難しい行為だ。テストの点を純粋に評価するだけなら簡単なことであるが、仕事において「人事評価をする」となると、それは別格の難しさである。
なぜ人事評価することが難しいのか、と言えば、答は一つ。「人の考えていることがわからない」からだ。例えば、他人の中で最も多くの時間を共有する「夫婦」という間柄で考えてみよう。
あなたが「旅行に行きたい」という。
配偶者が「いいね」という。
あなたはそれに対して、「温泉はどう?」という。
配偶者は、「賛成」という。
あなたは嬉しくなり、「じゃあ、箱根なんかどうかな?」という。
配偶者は、「賛成」という。
あなたは、昨日から見ていた旅行のパンフレットを見せ、「この宿はどうだろう?」という。
配偶者は、「いいよ」という。
あなたは早速電話をかけて、その宿を予約した。
ところが…
配偶者は不満顔である。
どうしたの?と聞くと、「なんでもない」と答える。
さて、どうして配偶者は不満なのだろう。
例えば、こんなことが考えられる。
・あなたが以前、「次の旅行は、北海道」と言っていたのを憶えていて、楽しみにしていた。でも本人は忘れていて、「箱根」という。箱根でもいいけど、不満。
・特に自分の意見があるわけじゃないので、何も言えなかった。けど、なんとなく「箱根」はイヤ。
・本当はその日に友達との予定を入れていた。あなたが嬉しそうなので何も言えなかった。どうしよう…
・旅行には行きたい。箱根にも宿にも不満はない。でもあなたはとても短気。旅行に行くといつも予定通りに行かないことに腹を立てる。そのせいで旅行も楽しくない。でも、旅行がイヤといえば喧嘩になる。困った。
・いつも旅行に行こう、といっても直前キャンセルばかりじゃない…また今回もそうでしょう。
以上のように、夫婦という、かなり近い間柄でも、まるで相手のことをわかっていない、なんていうことは普通だ。楽しい時間を共有した、お互いに信頼できる、なんていうことは所詮、「思い込み」にすぎない。
上司と部下、会社の人間関係など、言うに及ばずだ。
でもそれでいいのだ。人間関係は「思い込み」によって円滑に回る。思い込まなければ、やっていられない。分からないからこそ、相手のことばに全力で耳を傾けよう、と思う。
人事評価に話を戻そう。
相対している評価対象の人物は一体何を考えているのだろうか。仕事に何を求めているのだろうか。会社に対して何を感じているのだろうか。
基本的に、一切は謎である。謎である以上、「相手のことをわかっていない」という前提で話を進めなくてはいけない。また、「相手の考えていること」が不明である以上、相手の熱意、意欲は「言動」ではなく、「相手が実際にした行動」「残した実績」の2つで評価をすすめなくてはならない。
顧客からの評価は重要である。彼の評価は社内の評価ではなく、「顧客がどの程度満足しているか」から、定めなくてはいけない。
だから、「人事評価」において、基本的に相手の発言は重要ではない。発言ではなく、行動が問題にされなくてはいけない。
これは、上司として評価を行う上で、必ず守らなければならない事項だ。