AL0012-inemurikaigi20140722500ある会社員の方から、仕事について相談があった。要約すれば、以下のようなものだった。

「今の仕事、労働時間が長い割には残業代も出ず、やりがいもありません。会社への不満ばかりがつのります。どうすればいいでしょうか?」

 

残業代が出ないことなどから、その方はいわゆる、法律違反を犯している企業に勤めている可能性が高いと思う。実際、採用の仕事をしていると「残業代が出ないので、転職を決意しました」という方が結構いる。

その方は、周りの人達にアドバイスを求めた所、両親も含めて一様に「嫌なら辞めればいいじゃない」と言われたそうだ。

まあ、そうなのだろう。そんな会社はさっさと辞めて、次のマシな会社を探したほうが良いのは間違いない。

 

しかし、その方は現実として、辞めずに未だにその会社で働いているのだ。そこで、私は「なぜ、さっさと辞めないんですか?」と聞いた。

 

その方はため息をついている。

そこで私は、「やめられない理由は何ですか?」と聞いた。

 

その方はこう言った。

「次が見つかるかどうか不安で…。なんとかウチの社長に法律を守ってもらう事はできないですかね。」

「弁護士や、労基署に相談しましたか?」

「いえ…。」

「紹介しましょうか?」

「いえ…。」

「では、私が何かできそうなことはありますか?」

「何とかならないでしょうか。もう少し待遇がよくて、仕事がきつくないところとか、無いですかね。」

「転職したいということでしょうか?」

「それでもいいです。残業がない会社がいいんですが…」

「うーん、全く残業がない、っていう会社はわたしもちょっと今すぐに心当りがないですね…。探しましょうか?」

「そうですよね…いや、いいんです。探してもらうだけムダですから。」

「転職活動をこれからするつもりですか?」

「ええ、まあ。でも、もう35歳を超えて、こんなスキルじゃ、雇ってくれるところなんて今と変わらないですよね。」

「…」

「いや、いいんです。諦めてますから。もうブラックで働くしか無いんですよ。」

 

 

私はその方になんと言えばよかったのだろう。よくわからない。明らかにその方は自信や自尊心を失っていた。

「辞めればいいじゃない」

という、周りの声は聞こえていない。

そういう方々には、「有用な」アドバイスも届かないし、「行動すればいい」という、真っ当な言葉も響かない。

 

 その方が必要としていたのは、「アドバイス」ではなく、「肯定」なり、「愚痴を聞いてくれること」だったのかもしれない。

「自分から行動を起こすのが怖い」

「何をやってもムダだと思ってしまっている」

我々はそのような人々に、何か出来るのだろうか。

 

 

ある知り合いは、この話をした所、「自己責任」と切って捨てた。

「30すぎになって、そんなことでクヨクヨしているような奴は、結局転職しても同じさ」

またある方は

「そういう奴は、ブラックだろうがなんだろうが、職があるだけでマシだろう。「ブラック企業」が、「居場所」を与えていることは間違いないんでしょ?」

という。

確かに思い返すと、残念だがその方が転職活動をしたとしても、あの様子では雇ってくれる会社は、そう多くはないだろう。

結局のところ、現実的には「その方のような人々を誰が雇うのか」という話は、キレイ事では済まされないのだ。

 

ある経営者はこう言った。

「ブラック企業」にその責任を押し付けているのは、「ホワイト企業」だろう?

そういうやつを雇ってみりゃいいんだ。考え方も変わるぜ。

 

 

そして後日、私はその方に再び会った。

「その後、様子はいかがですか。」

「あいかわらずです。昨日もほんとうに大変でした。でも、一つだけいいことがありました。お客さんから「良い技術をもってるね」と言われたんです。それはうれしかったですね。」

「そうですか。転職活動は続けるんですか?」

「続けます。どこかが拾ってくれるまでやりますよ。」

 

人は、何で変わるかわからないものである。

 

 

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