昔、「わたし、自分でも呆れるほどナマケモノなんですけど、どうすれば変われるんですかね」と後輩に聞かれたことがある。

「正直に言えば、自分もよくわからない。」と答えた。

 

実際よくわからないのだから、そう答えるしかない。だが彼は「自分が変われる方法」を日々追い求めているようだ。

「やっぱり、生まれ持ったものとか、今までの人生経験とかが重要なのかもね。」

「そりゃそうですけど……そう言ったら身も蓋もないじゃないですか。」

 

 

身も蓋もない、そのとおりだ。

例えば、「結局、努力できるかどうかも、遺伝で決まる」という研究がある。実際そうなのかもしれない。しかし、それを言われても努力できない人にとっては何の役にも立たない。

それは「身も蓋もない情報」だ。そんな情報のことを、「True But Useless」(真実だが役にたたない)と言う。※1

 

 

例えば、愛煙家のパートナーに「タバコはからだに悪いよ。有意にがんの発生率が上がる」と言ったところで、殆どの反応は「そんなこと知ってるよ」と言われるのが落ちで、相手の気分を悪くするだけだ。

禁煙させたいのなら、体に悪いという身も蓋もない情報を相手にぶつけるのではなく、適切な治療計画や、ツール、薬を提供したほうがはるかに良い。

実際に、ある知人はパートナーに「とりあえず、病院に行って話だけでも聞こう」と治療計画を立ててもらい、禁煙してもらうことに成功した。

 

 

True But Uselessの話は、組織の中で「正論をいう人」の話に似ている。

 

たとえばある経営者はダメな営業社員に、「お前が成果が上がらないのは、行動量が足りなく、意識が低いからだ」と言い続けている。

そして、それは多分正しい。その社員は確かに意識が低いのだ。お客様のフォローもしない、テレアポもしない、手紙も書かない、とにかく圧倒的に行動量が足りないのだ。

たしかに「意識が低いから、行動量が足りないから、成果が出ない。だから意識を高く持って、行動量を上げろ」は正論だ。

 

だが、その彼は変わらなかった。その社長は業を煮やして、スパルタ研修に行かせ「意識改革」をさせるようにした。

そのスパルタ研修は「自分がだめなやつであること」を大声を出させたり、長距離を歩かせたりすることで認識させ、判断力を失ったところで「少し優しくして」洗脳するようなタイプの研修だった。

たしかに研修の直後は返事だけは良くなったらしい。だがそれは長続きせず、1ヶ月程度でまた元に戻った。

結局何も変わらなかったのだ。

 

 その状況を聞いた社長の友人が言った。

「カンタンですよ、その人にヤル気を出させるの。まあ、変わらないときもありますが、その人なら大丈夫でしょう。」

社長は疑ったが、友人という付き合いもありそれを依頼することにした。

「では、私に少々時間を下さい」

 

結果、1ヶ月でその営業マンは行動量が目に見えて増えた。あれほど渋っていたテレアポも少しずつやるようになった。社長は驚きを隠せず、友人に聞いた。

「なにをどうしたのだ」

「カンタンですよ、親しい担当のお客さんに頼み込んで、彼に聞いてもらったんです。

「テレアポってどうやったら頑張れるの?」とか、「どうやってヤル気を出しているの?」とか。

会社の中の人が「考えろ」と言ってもあまり効果がないけど、社外の人から言われると、自分で考えざるをえない。彼はお客さんに言われて、初めて自分で考えて、自分でそれを試してみたんでしょう。」

 

そして、その社長も少しずつ変わった。

「成果をあげるためには、意識改革ではなく、仕組みを改革しなければならない」

と、社長は言うようになった。

 

 

 

私が前職の時に見たセミナーのテキストにはこう書いてあった。

 

テニスを教えるときに、良いコーチは

「球をよく見なさい」

ではなく、

「ボールはどんな回転をしている?」

と聞くそうだ。

 

 

True But Useless(真実だが役にたたない)言葉は必要ない。

「気合」や「熱意」は確かに重要だが、それを個人の責任にせず、「仕組み」「方法論」「Tips」でうまく引き出すことが、マネジメントの妙味なのだろう。

  

 

 

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※1Switch! チップ・ハース&ダン・ハース 早川書房

 

 

(Michela)