いわゆる「管理職向け自己啓発書」には、部下からの信頼を得るためには納得感が重要、と書いてあるものが多い。
また、様々な会社の「管理職研修」を見ても、部下を説得するための技術や、同意を得る技術が紹介されており、ここでもまた「納得感」が重視されている。
そのためか、最近の管理職は「無茶」を言うことが少なくなっていると感じる。逆に、部下が「できそう」と感じることしか指示をしない上司が増えている。
もちろん「無茶ばかり言う上司」についていける人は少ないし、信頼されることもないだろう。無茶ばかり言う上司は残念ながら無能である。と同時に、逆説的であるが「無茶なことを言わない上司」もまた同じくらい無能なのである。
私は、ある会社においてそれを学んだ。
その会社は食品の商社だった。管理職は20名程度しかおらず、一介の中小企業であったが業績は好調だった。そして、私はその会社の「教育訓練」についての相談を受けていた。
私は、その会社の現状を知るために会社で人を育てるのがうまいとされる管理職と、課題のある上司の両者にインタビューを行った。
そして、そのインタビューは非常に面白い事実をわれわれにつきつけた。当初、課題のある上司は部下とのコミュニケーションが下手で、物分りの悪い上司と想定していたが、結果は全く逆であったのだ。
実際、傾向として人当たりがよく、聞き分けの良い上司は人をうまく育てられず、若干わがままで無茶なことを言う上司の方が、人をうまく育てる傾向にあった。
私がそれまで見てきた「管理職研修」や「本」と、その事実があまりにも違ったので、私はそれらの上司に張り付き、どのように部下とコミュニケーションをとっているのかを観察した。
人当たりがよく、聞き分けの良い上司は、決して無茶を言わない。そのため彼らは好かれている。コミュニケーションの中心は「納得感」に置かれている。
逆に無茶を言う上司はあまり好かれていはいない。が、部下は高みを目指すことを要求され、コミュニケーションの中心は「成果」に置かれている。
もちろん、どちらの部下が幸福なのか、と言われれば人によるだろう。しかし、「無茶をさせる」ことが部下の能力向上を実現するために不可欠だということは彼らが証明している。
結局のところ、無茶を言う上司の下で働く人のほうが、早く結果を出すのだ。部下は文句を言いながらも、上司を嫌いつつも、「自分の今までの限界」を超えたところで考えることを強制されるからだ。
そして、彼らが無茶を要求しながらも行っていたのは、「部下の真の限界の見極め」であった。それは、本人も自覚していない、「ここまでならできる」というラインだ。これは「単に無茶ばかり言う上司」との決定的なちがいだった。
無茶ばかり言う上司も、無茶を言わない上司もダメ上司である。この辺りのバランス感覚が、良い上司とそうでない上司の境界なのだろう。
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(Photo:The U.S. Army)