早く結果を出せ。早くやれ。早く成長しろ・・・、企業は全く『待てない』存在だ。楽天のトップである三木谷氏は、その著作である「成功のコンセプト」において、楽天における成功の秘訣はとにかくスピード重視の経営であると述べている。合言葉は「スピード!スピード!スピード!」だそうだ。
ただこれは楽天にかぎらず、おそらく多くの人は仕事に締め切りや目標が有り、それらを如何に『早くやる』かが、評価に関わってくるだろう。
もちろん、仕事は早いほうが良いし、ダラダラ仕事をして、何も生み出さないのでは意味が無い。にも関わらず、「スピード重視しすぎること」のデメリットは意外に大きい。
例えば上に上げた「ソフトウェア開発プロフェッショナル」という本の著者であるスティーブ・マコネル氏は、
- 中規模以上のソフトウェア開発の75%は、ムダな納期のプレッシャーを受けている
- ソフトウェアの欠陥の半分以上は納期のプレッシャーがきつすぎることで発生する
などと、過度な短納期に対する警告を発している。
また、これはソフト開発だけの話ではなく、製造業においてもJIT(ジャスト・イン・タイム)を採用し、部品発注から納品までのリードタイムを極限まで短縮するよう統制した結果、下請けがそれに対応できず、結果として下請け先に在庫が積み上がるなどの弊害も報告されている。
これでは、下請けとの長期的なパートナーシップを結ぶことなど出来ない。
「そんなこと言ったって、商売の時期を逃したら、元も子もない」という意見もある。
これに対して特に異論はない。しかし、短納期が過ぎることによるしわ寄せは、結果的に品質に向かったり、協力会社との関係に向かったりということもある。
また、「過剰品質を廃して、とにかく市場に出して見ることが大事だ」という方もいる。が、Appleの地図騒動に見る限り、ユーザーの低品質プロダクトに対する目は極めて厳しい。
さらに、早く製品を出せ、であるとか、早くシステムを完成させろ、は実はまだ良い方だ。「そこそこのものを、早くだす」という形で品質は妥協することが可能だからだ。
しかし、「人材育成」に関して「直ぐに結果を」という方が意外に多いのも驚く。
確かに、「資格をとる」であるとか、「社訓を暗記する」といったような表層的な能力を訓練することは可能だ。しかし、「論理的に思考できる」であるとか、「前向きになる」であるとか、抽象的な能力について、インスタントに短期間で身につけさせるのは無理がある。
また、従業員を急かせば急かすほど、短期的なプレッシャーをかけるほど、従業員は「より楽な道」や「見せかけの能力」を重視し、本当の力はつかず、仕事が嫌いになる。これは、子供にプレッシャーを掛けて勉強させると、勉強が嫌いになるのと同じ事だ。
結局はバランスであり、スピードが要らないと言うつもりはない。
だが、「スピード重視」は黄金律ではないことは、言うまでもない。