企業が利益をあげることに対して反感を覚える人々は多い。先日もトヨタに対して
企業の内部留保の活用、私からもお願いしたい=政労使協議で首相
企業において、賃金が減る一方で、株主配当や内部留保が増えていることへの反発が大きくなっていることから、首相が配慮した発言だろう。
(この批判は的はずれであり、内部留保を「貯金」か何かと勘違いしている会計を知らない人からの批判なのだろうが)
しかし、この批判が的はずれだろうとなんだろうと、「反感」は事実であり、企業にとって解決しなければならない問題の一つである。もちろん、トヨタのような大企業だけではなく、中小企業においても従業員が「会社はなぜこんなに利益利益というのか」という反発は非常に多い。
この反発をなくそうと経営者は様々に知恵を絞る。よくある解決策が、「業績連動賞与」である。利益が出たら、その分前を従業員へも分配しよう、という制度だ。
しかし、従業員は本当に「業績連動賞与」によって、「会社が利益を出さなければいけない理由」を理解してくれているのだろうか?
ピーター・ドラッカーはこう指摘する。
”利益が大きなことは良いことであると思わせることはできる。さらには、自らの仕事ぶりが年末の小切手と関係が有ることを知らせることもできる。しかし現実には、これらの点についてさえ、利益分配制度は、熱烈な支持者は別として、さして強い印象を受けるほどの成果はない。”
と、利益分配制度について述べる。さらに、
”利益分配制度は従業員に利益の機能を理解させることが出来ない。利益か、さもなければ損失と衰退かという二者択一があるだけであり、利益は絶対的に必要なものであるという認識を与えることが出来ない。”
と、批判する。
これを解決するために、経営者が理解すべきは「従業員は、なぜ利益に反発をするのか」という事の本質を理解する必要がある。
ドラッカーは続けてこう述べる
”利益に対する反感は、経済的な利害よりも根深い。それは自らの個としての目的が、企業の非人格的な目的に従属させられることに対する抵抗に根ざしている。”
つまり、「金の問題」では無いということだ。
”従業員による全株式の所有さえ、すでに100%従業員所有の企業、あるいは国有の企業における経験が示しているように、答えとはならない。”
ということが真理である。
”これら善意に基づく真剣な試みのいずれもが、効果をあげえない原因はそれらのものが、働く人の仕事そのものに焦点を合わせていないことにある。実に仕事こそ、企業における彼らの最大の関心事である。
従って、その彼らの仕事が利益に依存しており、利益によってより良いものとなり、より安定した者となり、より美しいものになるということを認識できるようにする必要がある。”
ドラッカーによれば、従業員に利益を認めさせるための既存の制度の全てが、彼らに「所有者」意識をもたせることを目指しているという。いわゆる「経営者目線」というものかもしれない。
しかし、企業において、従業員が真に所有しているのは「仕事」である。利益分配制度や従業員持株制度は付属物にすぎない。
ドラッカーはこう締めくくる。
”従業員の目に企業の目的が利益の追求と映る限り、自らの利益と企業の利益との間に対立を確信せざえるを得ない。(中略)しかし、企業の目的が顧客の創造にあるとするならば、対立の代わりに調和がもたらされる。”
様々な企業の「年度初めの総会」や「キックオフ」を見てきたが、ほとんどの企業は、「目標とする売上、利益」の話に終始する。これでは、従業員は「利益の重要性」に気づくことは出来ない。
たまには「売上、利益」の話は一番最後にして「こんな社会をつくろう、こんなお客さんと付き合おう」という話をメインにしてもよいと思うのだが。