仕事に効く 教養としての「世界史」「仕事に効く教養としての世界史」を読了。正直に言うと、「仕事に効く」というフレーズがタイトルに入っていたので、あまり期待していなかったのだが、想像よりもかなり楽しめた。

著者の出口氏はライフネット生命の創業者であり、生粋のビジネスマンに見えるが、「世界史に詳しい」ということで京都大学の教養学部で世界史について教鞭をとったことがあるとのこと。

 

前書きにおいて「なぜ世界史が仕事に効くのか」についてエピソードが紹介されている。

 

”昔話になりますが、仕事でワルシャワにいったことがあります。大した会議ではなかったので、ご飯を食べて帰ろうと思っていたら、突然一言挨拶してくれと言われました。

全く準備をしていなくて焦ったのですが、あることを思い出して、

「初めてワルシャワに来ましたが、人魚がつくった街にくることができて、大変嬉しい」と話しました。

すると皆さんがとても喜んでくれて、食後に人魚の像まで連れて行ってくれたのです。日本人は何人も来たけれど、ワルシャワは人魚が作った街だということを話したのは、

お前が初めてだ、と。

(中略)いろいろな歴史を知っていると、人々とコミュニケーションをとるときの最初のバーが低くなる。だから、ビジネスをしている人にとっても、歴史は役に立つのです”

 

しかし、この話は(失礼ながら)なんとなくとってつけた話のような気がする。

出口氏はおそらく本当に「世界史が大好き」なのだ。それが本書からビシビシ伝わってくる。

「仕事に効く」とタイトルに入れたのは、「この方が売れる」と思った出版社のいらぬお世話ではないだろうか。

ローマに心酔していることで知られる塩野七生の「ローマ人の物語」も大変面白いが、やはり人は「好きなものについて語る」時にもっともクリエイティブになれるのではないかと思う。

 

 

さて、それはともかくとして、本書で特に「面白い」と感じるのは出口氏の「中国」について語った部分である。

ヨーロッパの歴史についても触れており、それも面白く書けているのだが、「中国」についてのイキイキとした描写には遠く及ばない。

 

例えば本書を読むまで、「始皇帝」については私も歴史の教科書に乗っている以上のことは殆ど知らず、単なる「暴君」だと思っていた。

が、出口氏は「始皇帝」を「不世出の天才」と評し、ローマにおけるカエサルになぞらえる。

 

 

 

確かに始皇帝はあの広大な国土をまとめあげた人物であり、有能であったはずだ。しかし、「焚書坑儒」や圧政のエピソードばかりが強調され、「何がイノベーションだったのか」についてはほとんど学校では習わない。

習ったとしてもせいぜい「法家思想による統治で力を持った」というくらいだ。

 

しかし、出口氏は始皇帝のイノベーションは「文書行政」にあったと述べる。すなわち、「官僚制度」を作り上げた最初の人物だった、ということだ。

それまでの統治は地方の豪族に政治を任せ、税金だけ納めていればあとは放置、というものだったらしい。それでは強い国は作れない。教育を受けたエリートが中央から派遣され、法によって統治する。それが始皇帝の「国のグランドデザイン」だった。

出口氏は「今の中国も結局のところ、このグランドデザインから抜け出していない」という。

 

他にも始皇帝が「道路」について成しとげたイノベーションが、ローマと対比されており、興味深いエピソード満載である。

いいものを読ませていただいた。