理化学研究所の小保方氏らが発見したとされるSTAP細胞であるが、どうやら「捏造ではないか」との見方が大勢である。
加えて、小保方氏の博士論文についても他の研究者の論文をそのままコピーしたものであるとの疑惑があり、「大発見」から一転して「インチキ」と、糾弾は免れない模様だ。
さて、これが事実であれば当然、彼女は研究者生命を絶たれるわけだが、一つ「おかしい」と思うことがある。
研究者の発表する論文は重要性が高ければ高いほど、「再現実験」を試みられることになる。
特に、今回の発表はメカニズムがわかっていなかったので、「なぜこういったことが起きるのか」について、さまざまな検証が行われる。
もちろん、膨大な数の論文があるので、すべて検証されるわけではない。中にはこの研究と同じように「限りなく黒い」ような論文も含まれているだろう。
しかし、今回の論文の発表は「ノーベル賞級」と目されるほどの発見だった。再現実験が行われることは明らかである。
したがって、普通の頭で考えれば、これほど重要な発見であれば、「インチキはすぐにバレる」と思うはずである。
博士論文は注目度が低いのでコピペでもバレなかったかもしれない。
が、今回の論文は世界中が注目する。遅かれ早かれ不正が存在すればそれは明るみに出る。「捏造する」と言うのはちょっと考えれば明らかに不合理だ。
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では一体、人はなぜ、すぐにバレるような不正をするのだろうか。
実は昔、ある会社で「すぐにバレる不正」を見たことがある。
ある営業が、「受注した」と言って受注の手続きを取った。しかし、実際にはそれは架空のもので、実際には契約に至らず、営業は「キャンセルになった」と言う。
しかし調査の結果、顧客は「発注した事実はない」と延べ、営業の不正が発覚した。
「ちょっと考えれば、すぐにバレることがわかる」にも関わらず、営業は虚偽の報告を行ったのである。
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俯瞰してみると今回の小保方氏の件と、上の営業の件は様々な部分が酷似している。
1.短期的に、高い成果を求められること
理化学研究所のある研究室の募集要項を見ると以下のようになっている。
基礎科学特別研究員(常勤)
理化学研究所独自のポスドク制度で、毎年募集を行ないます。日本学術振興会の特別研究員(PD)のようなものです。概要は、
- 自ら設定した研究課題を自主的に遂行
- 1年契約(所要の評価を経て最長3年間を限度として更新可)
理化学研究所の評価は非常に厳しく、1年毎に研究の評価が行われ、基準に達していなければクビになる。「1年で高い成果を出せ」というわけだ。
当たり前だが、このような状況でも不正を行わない人のほうが圧倒的多数である。だが、「短期的な成果を出すことのプレッシャー」は、不正の温床となりやすい。
特に、「上司に怒られる」「クビになる」と言った極めて不快な状況が予想される場合には、人は「その場しのぎ」の行動に走りやすい。「わかっちゃいるけどやめられない」というやつだ。
2.チェック機能が機能不全であること
営業が受注した時には通常、会社は顧客に契約を一つ一つ確認したりはしない。手間もかかるし、社員を疑うようなことはしたくないからだ。
研究所では研究の内容についてのチェック体制がどうなっているのかは分からないが、少なくとも早稲田大学はコピペをチェックしていなかったようだ。理化学研究所も同様なのだろうか。
いずれにせよ、「誰も見ていない」時には、魔が差すことはあるかもしれない。
「性善説」を唱えた孟子が言うように、「人は、様々な誘惑によって、倫理的な行動を取れなくなる」のだ。
調べられれば直ぐにバレてしまうようなことも、チェックが甘いと「もしかしてバレずに行けるのでは」と人に思わせてしまう。
もちろん不正を行う人はごく一部である。
しかし、「不正をさせないような仕組み」がない場所においては、誘惑に勝てない人がいるのもまた事実である。
お互いのためにも、最低限のチェック機能、そして、成果を急ぎ過ぎないことは、不正を防ぐ上で非常に重要だ。