”やりたい仕事とちがった”という経験は、多くの人にあるのではないかと思う。
「新卒で入社した若手は、3年で3分の1辞める」というデータがあり、その大きな要因の一つは、「思っていた仕事と違った」「自分のやりたいことではなかった」というものであるが、それだけではなく転職した時、部署異動となった時、転勤した時、プロジェクトが始まった時…様々なシーンで、「自分が希望していたことと違う仕事だった」という話がなされる。
寧ろ今のように変化の激しい時代にあっては、「やりたい仕事に就けました」は、とても貴重な出来事なのかもしれない。
さて、では、あなたがこのような目にあった場合、つまり「思っていた仕事とちがう」という状況に追い込まれた場合、一体どうすべきなのだろうか。
選択肢は大きく2つある。
1.会社を辞めて、やりたいことができる別の職を探す
2.今の会社にとどまり、やりたいことができるまで頑張る。
いずれの道が正しいか、少し考察してみる。
1.を選んだ場合、次の職が「やりたいことが出来る職」という可能性は残念ながら低い。企業は実績のない人を雇うことに消極的な上、再度「思っていたのと違う」が起きる可能性は高い。したがって、このような選択を繰り返すと徐々にキャリアが汚れていき、やりたい仕事どころか、「まともな仕事」にすらありつくのが難しくなる。おすすめは出来ない。
では、2.を選んだ場合はどうだろう。残念ながら2.を選んだ場合も「当初望んだこと」ができる可能性は低い。会社のやらなくてはいけないことは変化する上、「個人が望むこと」と、「個人の得意なこと」は別である可能性も高い。さらに、「見栄えの良い仕事」は必要とされる人が少ないため、希望者も多く、競争も激しい。
大手の製造業で営業をやっている人が、「実は自分はマーケティングや商品企画がやりたかったんですよ」ですから、そちらの部署に異動できるようになるまで頑張ります。と言っていたが、残念ながら、彼の希望が叶うことはあまりないだろう。営業で活躍すればするほど、かれは営業として重宝されるようになる上、マーケティングや商品企画は人数が少ないからだ。
実際、この問題は会社のマネジメントにおける最も難しい問題の一つである。結局のところ、「全員に希望の仕事を用意することは出来ない」が現実であり、それをごまかすことは出来ない。
では、結局「やりたい仕事とちがった」は解決出来ないのだろうか。いずれの道を選んでも同じなのだろうか。それとも、第三の選択肢があるのだろうか。
実はそんなことはない。この問題に解決策を与えることも可能だ。それは、自分が変わることである。
そして、多くの場合「◯◯がやりたい」という希望は思い込みに過ぎない。だから、変わるためには「視点」を誰かに提供して貰う必要がある。
若手 「私はマーケティングや、企画がやりたいんです」
上司 「ほう。営業じゃ駄目ですか。」
若手 「駄目です。」
上司 「なぜですか」
若手 「営業は目の前にある商品をいかに売るか、というのが仕事です。私は、商品を企画して、作る人を目指しているんです」
上司 「なるほど。難しい仕事をしたいんだね。」
若手 「そうです。ですから営業ではなく、マーケティングの部署で働きたいんです。」
上司 「なるほど、君は今のマーケティング部門が良い仕事をしていると思うかい?」
若手 「思います」
上司 「なぜですか」
若手 「先日出たような、あの大ヒット商品を作っているからです。」
上司 「君は、あれがマーケティング部門が考えたものだと思っている?」
若手 「そうです。」
上司 「あれは営業部門からの提案だ。現場の意見を汲み上げて、マーケティング部門に申し入れをするのも、営業の大切な役割だ。」
若手 「え…そうなんですか?知りませんでした。」
上司 「営業がいなければ、マーケティング部門は成り立たない。営業あってのマーケティング、と言ったら、君はどう思う?」
若手 「…」
もちろん、自分がどう思うかは本人次第だ。
しかし、往々にして「その道のエキスパート」や、「成果を出している人」は、異なる視点を持っている。
「やりたくない仕事」は多く、「やりたい仕事」は往々にして少ない。しかし、視点を多様に保つことで、「やりたくない」を「やりたい」に変えることはそれほど難しいことではない。
故スティーブ・ジョブスは、人生の大切なことは、Connecting the dots と語った。「何が役に立つのかは、その時点ではわからない。後になってわかるものである。そのためには、いつか何かの役に立つと、信じるしか無い」と。
希望しない仕事での経験は言うに及ばず、ときにはブラック企業で働いた経験すら、人生の糧となることがある。
こう思えばいい。
「いまは自分には分からないが、営業の経験がきっと役に立つはずだ。どうせ10年後に何をやってるかなんて、わかりっこない」
それが、解決策だ。