「はだかの王様」という物語がある。著者はかの有名なアンデルセン。子供の頃にはだれでも一度読んだことのある物語だろう。
以前よく訪問していた会社の経営者は、この話をよく引き合いに出していた。事あるたびに「経営者ははだかの王様になってはいけない」と、繰り返し言っていた。
「まわりに、自分にとって耳の痛い話をしてくれる人がいなくなったら、危険だ」というのだ。「自己中心的な社長のまわりにはYESマンしか残らず、有能な人が辞めてしまう」とも言っていた。
「経営者は周りの人たちが本当のことを進言できるようにすべき」というのだ。
総じて、「ワンマン社長は良くない」というのが「はだかの王様」という物語が経営者に対する警句として使われる文脈である。
ところが、である。
アンデルセンの書いた「はだかの王様」はそんなことは言っていない。
実際のストーリーはこうだ。
おしゃれが大好きな王様のところに2人の詐欺師が現れ、王様にこう進言する。
「我々は世界一の布が作れます。とても美しい布です。更に珍しいことに、この布はバカには見えないのです。」
王様はそれを手に入れたいと思い、詐欺師に服を作ることを命じる。そして、王様は詐欺師に多くの金をあたえ、その服を手に入れる。が、驚いたことに自分にはその服が見えない。
王様は焦るが、自分がバカであると思われたくないあまり、本当のことは言わず、家来の「これを着てパレードをやったらどうですか」という進言を受け入れる。
そしてパレードの当日。王様の服が見えるものは誰も居ないのだが、皆自分がバカであると思われるのをおそれ、だれも本当のことを言わない。ただ一人の無邪気な子供を除いて。
その子供はこう叫ぶ。「王様ははだかだよ!」
皆は我に返り、「王様は裸じゃないか」と口々に叫ぶ。しかし、王様はプライドもあり、パレードをやめるわけにも行かず、そのまま行進を続けた。
ここで出てくる王様はワンマンではない。少しプライドが高く、単に愚かなだけだ。
そして、周りの人々も「王様が怖いから」本当のことを言わないのではなく、「バカと思われたくないから」本当のことを言わないのである。
実際には「ワンマンはダメ」などどこにも書いておらず、アンデルセンは、「バカと思われたくない、と思う奴がバカ」と言っているのだ。
実際には、組織がダメになる原因はアンデルセンの物語の通り、
「愚かなトップ」と、「プライドだけ高く、保守的な社員」がセットになった時に起きる。
「スティーブ・ジョブス」や、「孫正義」などの経営者を見てみても、ワンマンである事自体は、悪くはないのである。