5033529432_624dea6717_z「会社は努力も評価してくれるけど、世間は結果しか評価してくれないよな」

と、ベテランのフリーランスの方は言った。彼はもう今年でフリーランス9年目とのことだ。私はベテランの彼と、もう一名の若いのフリーランスの方と、いそいそと昼食をとっていた。

 

もう一人の若いフリーランスの方は、「どうしてそう思ったのですか?」と尋ねた。

「だって、会社は成果にかかわらず、会社に来れば給料出してくれるじゃない。」

「まあ、そうですね」

「クビにも出来ない」

「形式上は。」

「ともかく、世間様よりはずっと会社のほうが温かいわけだ。」

「…。」

「それなのに、なんで会社に文句ばかり言うんだろうねえ」

 

「なにかあったんですか?」

「いや、お世話になってる会社があるんだけど、そこの担当者がね…。」

「担当者の方が、どうしたのですか?」

「いや、口を開けば、会社の愚痴ばかりなんだよね。大企業で、待遇としては恵まれていると思うんだけどね。やれ、部長が使えないとかさ、同僚が働かないとか、別に今の待遇なんだから、文句をいうほどじゃないと思うんだけどねえ」

「なるほど。」

「とりあえず、努力しておけば会社から給料が出るっていうことが、どんなに恵まれているのか、勤め人にはわからないのかな。まったく。」

「…。」

「ごめんごめん、オレが愚痴を言ってたな。」

若いフリーランスの方は、なにか考えている。

 

「わりいわりい、さ、飯を食っちまおうぜ。」

「すいません」と、若いフリーランスの方は、ベテランに話しかける。

「別に愚痴くらい、いいじゃないですか。相手の方への愛が足りないですよ。愛が。」

「まあ、そうなんだが…。最近はちょっとうんざりしちまってな。そんなに不満なら、さっさと会社をやめちまえばいいのに。」

「多分、辞められないから、愚痴っているんですよ。」

「まあ、そうだろうな。」

「わかってんじゃないですか。じゃあ、これ以上その方を責めるのはやめましょうよ。そうやって、弱い者いじめをしてると、後で痛い目見ますよ。」

「へいへい、でもさ、こっちとしては「会社に守ってもらってんだから、文句言うなよ」って、思っちゃうんだよな。」

「われわれだって、お客さんに守ってもらってるじゃないですか。同じですよ、お客さんに文句言っちゃダメです。」

「お、オマエ頭いいな。そのとおりだ。」

 

「まったく…。よく10年近くも、フリーランスやってこれましたね。」

「まあ、お客さんに感謝だな。本当に。でも、会社員とちがって、嫌な客とは付き合わなくていいからな。そこだけはフリーランスになってよかったかな。」

「会社員だって、嫌なら辞めればいいじゃないですか。」

「お、さっきと言ってること違うぞ。会社員は辞められないんだろ。」

「あ、…そうでしたね。そう考えると……やめたくても辞められない会社員の方が、一番気の毒かもしれませんね。」

「そうだな……。そういえばオレも昔、辞められないと思っていた時は悶々としてたな。決断して良かったけど。」

「まあ、人生なんとかなるもんですからね。」

「まあ、それを考えれば、担当者を責めるのは酷だよな。」

 

「……なんで、そんな嫌な会社を辞められないんですかね。」

「さあな。食えないって、思い込んでるからじゃないのか。」 

「そうですね、でも面白いですね。会社員なんて、私達の祖父の生まれた頃には少数だったのですよね。」

「ああ、そういえばそうだったな。」

「われわれの孫の世代には、会社員なんて、無くなっているんですかね。」

「そうかも知れないな。」

 

 

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(Photo:Takadanobaba Kurazawa)