「会社は努力も評価してくれるけど、世間は結果しか評価してくれないよな」
と、ベテランのフリーランスの方は言った。彼はもう今年でフリーランス9年目とのことだ。私はベテランの彼と、もう一名の若いのフリーランスの方と、いそいそと昼食をとっていた。
もう一人の若いフリーランスの方は、「どうしてそう思ったのですか?」と尋ねた。
「だって、会社は成果にかかわらず、会社に来れば給料出してくれるじゃない。」
「まあ、そうですね」
「クビにも出来ない」
「形式上は。」
「ともかく、世間様よりはずっと会社のほうが温かいわけだ。」
「…。」
「それなのに、なんで会社に文句ばかり言うんだろうねえ」
「なにかあったんですか?」
「いや、お世話になってる会社があるんだけど、そこの担当者がね…。」
「担当者の方が、どうしたのですか?」
「いや、口を開けば、会社の愚痴ばかりなんだよね。大企業で、待遇としては恵まれていると思うんだけどね。やれ、部長が使えないとかさ、同僚が働かないとか、別に今の待遇なんだから、文句をいうほどじゃないと思うんだけどねえ」
「なるほど。」
「とりあえず、努力しておけば会社から給料が出るっていうことが、どんなに恵まれているのか、勤め人にはわからないのかな。まったく。」
「…。」
「ごめんごめん、オレが愚痴を言ってたな。」
若いフリーランスの方は、なにか考えている。
「わりいわりい、さ、飯を食っちまおうぜ。」
「すいません」と、若いフリーランスの方は、ベテランに話しかける。
「別に愚痴くらい、いいじゃないですか。相手の方への愛が足りないですよ。愛が。」
「まあ、そうなんだが…。最近はちょっとうんざりしちまってな。そんなに不満なら、さっさと会社をやめちまえばいいのに。」
「多分、辞められないから、愚痴っているんですよ。」
「まあ、そうだろうな。」
「わかってんじゃないですか。じゃあ、これ以上その方を責めるのはやめましょうよ。そうやって、弱い者いじめをしてると、後で痛い目見ますよ。」
「へいへい、でもさ、こっちとしては「会社に守ってもらってんだから、文句言うなよ」って、思っちゃうんだよな。」
「われわれだって、お客さんに守ってもらってるじゃないですか。同じですよ、お客さんに文句言っちゃダメです。」
「お、オマエ頭いいな。そのとおりだ。」
「まったく…。よく10年近くも、フリーランスやってこれましたね。」
「まあ、お客さんに感謝だな。本当に。でも、会社員とちがって、嫌な客とは付き合わなくていいからな。そこだけはフリーランスになってよかったかな。」
「会社員だって、嫌なら辞めればいいじゃないですか。」
「お、さっきと言ってること違うぞ。会社員は辞められないんだろ。」
「あ、…そうでしたね。そう考えると……やめたくても辞められない会社員の方が、一番気の毒かもしれませんね。」
「そうだな……。そういえばオレも昔、辞められないと思っていた時は悶々としてたな。決断して良かったけど。」
「まあ、人生なんとかなるもんですからね。」
「まあ、それを考えれば、担当者を責めるのは酷だよな。」
「……なんで、そんな嫌な会社を辞められないんですかね。」
「さあな。食えないって、思い込んでるからじゃないのか。」
「そうですね、でも面白いですね。会社員なんて、私達の祖父の生まれた頃には少数だったのですよね。」
「ああ、そういえばそうだったな。」
「われわれの孫の世代には、会社員なんて、無くなっているんですかね。」
「そうかも知れないな。」
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(Photo:Takadanobaba Kurazawa)