ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論 (講談社現代新書)ある本を読みなおしていて、非常に面白いパズルが例示されていた。これは「例え話」がいかに強力かを示した良い例だと思うので、紹介したい。

プレゼンテーションや、文章を書くときに例え話をよく引き合いに出すが、例え話の出来不出来によって、受け手には大きな差が出ることがわかる。

 

 

問題

ある外科医が、悪性腫瘍を治療しようとしている。外科手術は不可能で、放射線を用いる以外に方法がない。

ところが、腫瘍を破壊するだけの強度の放射線を一箇所に当てると、放射線が通過する健全な組織まで破壊してしまう。健全な組織は破壊しないで

悪性腫瘍だけを一瞬で破壊するためには、どうすればよいのだろうか。

 

 

これは、引用文献によれば、カリフォルニア大学の心理学者キース・ホリオークとポール・サガート著「アナロジーの力」からの一節である。

かれらはこの問題を大学生を対象とする被験者で調べた所、正解率はたったの10%程度だった。

 

 

 

 

 

 

ところが、次の将軍の話を先に読んで、アナロジー(類推)を用いた被験者では、正解率が75%に増加したという。

 

”問題

ある将軍が、独裁国を攻撃しようとしている。国の中央には独裁者の立てこもる要塞があり、底から周囲に向けて多くの道が延びている。

すべての道には地雷が仕掛けれられているので、少人数しか通り抜けることができない。

ところが、要塞を陥落させるためには、大人数で一斉に攻撃する必要がある。どうすればよいのだろうか”

 

 

解答はあえて載せないが、著者はアナロジー(類推)の力について、こう書いている。

 

”外科医のパズルと、将軍のパズルは一見全く無関係な世界の出来事である。しかし、何らかの「力」を一旦分散させて、再び局所に集中するというアナロジーを見い出せば、

両方のパズルを一挙に解決するということもできたはずである。

2つの問題を結ぶアナロジーには、極めて抽象的な思考力が必要とされる。実際に、この種の能力をコンピュータに組み込むことは、認知科学者にとって大変な難問と考えられている。

しかし、人間はごく日常的にアナロジーを用いているのである”

 

 

人間の力とコンピュータの力が対比されることが多いが、人間の力の奥深さにはただ舌を巻くばかりだ。