私の以前の職場は「超」がつくほど、徹底した厳しい人の管理をしていた。
「企業向けの研修」を販売する部隊が最も大きな部隊だったのだが、そこに所属している人間は基本的に全員営業であり、全員が毎月のノルマをこなすのに必死だった。
目標はとても厳しい数値で、目標をきちんと達成している人物は全体の5割程度であり、ほとんどの人間は夜10時、11時まで働いていた。そうしないとノルマを達成できなかったからだ。
毎月の定例会では目標の達成度合いのランキング表が全員に配布され、誰がどの程度売上をあげているか、一目瞭然だった。
当然、目標は「必達」とされ、目標が未達の人間と、達成した人間では扱いがかなり異なる。
年間を通しての成績がNo1となった人間には大きなボーナスが振る舞われる一方で、目標が未達となった人間の肩身はとても狭いものとなった。
そんな中、管理職になった人間は目標未達のメンバーが出ればチームの成績に営業が出るため、必死になって彼等に目標を達成させようとする。
結果的には、管理職はそういった「目標を達成していない人たち」に対して、厳しい行動管理を要求した。
例えばこうだ。
「テレアポ」は一日100件をノルマとする。
「顧客への訪問」は、1周間に10件以上をノルマとする。
「成約」は、1ヶ月に3件以上をノルマとする。
「社長との会話」をすべてメモし、帰社してリーダーと読み合わせをし、改善点を探る。
朝の8時から9時まではその日の営業の作戦会議。日中は営業。帰社して夕方の6時から7時までは反省会。その後に自分の仕事。帰宅は11時。
それが、毎日毎日続く。
当然、体を壊して休職したり、退職したりする人も数多く出る。血尿を出した人もいた。大きなプレッシャーの中で仕事をするがゆえに、悲しいことに、中には不正な営業成績を申告する人もいた。そして、そういった人々は辞めていった。
厳しい環境だった。新卒、中途にかぎらず3年後も残っている割合は大体5割程度だったと思う。
こう言った話を聞くと、ネガティブなイメージを抱く方も数多くおられようが、楽しんで働いている人はわりあい多かったような気がする。給料も新卒で450万円程度は出ていたと思うので、悪くない。というかかなり良いほうだろう。
また、新卒の成長は早く、生き残ればかなりの高レベルの仕事のスキルを手にすることができる。
厳しい労働環境とプライベートの時間と引き換えに、お金とスキルを手にする、そういう人生を選んだ人たちが集まってきていた。
その人生の選択について、私はとやかくいうつもりはない。人生の一時期、寝食忘れて働くのもまた選択の一つだ。
しかし、そうは言っても成果を出せなければ、スキルもクソもない。
だから、あの頃の人事管理の方針は、当時の上司が言っていた「性弱説」にもとづいて行っていた。
上司は言った。
「性悪説は間違っている。人の本性は悪ではない。悪人はいない。しかし、何も言われなくても進んでつらい思いを喜んでする人もあまりいない。人は安きに流れる。つまり、弱いのが人だ。性弱説、それが人事管理の基本的な考え方だ。」
私は当時、管理職であった。そして方針通り、「性弱説」を基本とした管理を行った。
ノルマを課し、出来なければできるまでやらせた。時にはルールを守れなかった人間を皆の前で叱責もした。当時は普通だと思っていたが、今思えばパワハラかも知れない。しかし、当時は私はそれが正しいことであると思っていた。
出来ない人間は「弱い」のだ。できるようになるまで統制し、管理しなければならない。でなければ、会社で生き残ることは出来ない。彼等を強くするのが、管理職の役割だと、信じて疑わなかった。
しかし、私は徐々に「性弱説」に疑問を持つようになった。
「成果を上げられない人間は本当に「弱い」のだろうか?」
「「性弱説」を受けた、厳格なノルマや行動管理にもとづく人事管理は、本当に成果に結びつくのだろうか?」
「厳格な管理のもと、人は楽しく働けるのだろうか?」
私が出した答は、すべて「否」である。
・頑張っても成果を上げられない人間は弱いのではない。「得意でない」のだ。
・厳しい行動管理は、画一的な仕事のやり方を押し付けるだけであり、長期的にはマイナスだ。仕事は好きなやりかたで、好きなように、型破りでもいいので勝手にやらせるべきだ。
・言われたとおりやっていたほうが楽しい、と言う人を部下に持つよりも、言われた通りやりたくない、と言う人のほうが魅力的だ。
ただし、上のようなやり方では成果が出るまでにとても時間がかかる。
「すぐに成果がほしい」と言う会社には不向きだ。余裕のない会社には、こう言った手法は取れない。
しかし、当時の会社は100人程度の規模だったにも関わらず、業務を急激に拡大するため、新卒を10名以上も採用していた。「余裕」などなかった。
今思えば、成長のスピードをもっと緩やかにし、短期的な成果を求めず、人をゆっくり育成する方針を採用すべきだったのだろう。
「性弱説」は正しいのかもしれない、が、私には合わなかった。
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