「飽きる」という状態は、企業にとって恐るべき敵だ。
しかし、人間を相手にしている以上、避けて通れない。
味に飽きた。
ゲームに飽きた。
提供される情報に飽きた。
仕事に飽きた。
道具に飽きた。
勉強に飽きた。
ストーリーに飽きた。
「飽き」という感覚は、人の習熟を妨げ、企業にとっては顧客を失わせる。そのため、皆は知恵を絞って、「飽きさせないようにするにはどうしたら良いか」「刺激を与え続けるにはどうしたら良いか」に知恵を絞る。
一方で、「定番」というものが存在する。「定番」は飽きられない。むしろ、「いつもと同じ」であるから好まれる。売れる。利用される。
「サザエさん」を見る。
「お気に入りのブランドの服」を着る。
「行きつけのお店」に通う。
「繰り返し同じ本」を読む。
「気の置けない友人」と遊ぶ。
「いつもの電車」に乗る。
いずれも、「大きな変化」は好まれない。
「飽きさせないように努力する」から、「いつもと同じものを提供できるように」への変化は大きい。
前者は「刺激を継続的に与えて、惹きつける」のに対して、後者は「変化をできるだけ避けて、惹きつける」である。
企業の商品やサービスは、殆どの場合「定番」となればなるほど儲かる。プロモーションや仕様変更を行わなくて済むからだ。
常に刺激を求める移り気なお客さんは、企業にとってはむしろ頭がいたい問題である。だから、企業を困らせようと思ったら、こう考えるのが一番だ。
「どんなサービスも、一回しか利用しない」
このようなお客さんが増えると、結果的に企業はプロモーションに金を使い、顧客へのサービスの質も低下する。企業も顧客も、双方が損をする。
しかし、現実的にはほとんどの人は、「良かったら、何回も利用する」である。なぜなら、数多い選択肢の中から、吟味し選択するのは面倒だからだ。
こうやって、「定番」が生まれる。「定番」は、「面倒」の裏返しなのだ。
「比較選択」の面倒さが、「飽き」を上まらない限りは、顧客は他へ移らない。この点において、「ゲーム」や「証券」、「家電」、「旅行」、「テレビ」、「出版」などは他社との比較選択がカンタンであり、スイッチコストが低いので、徐々に儲からない業界に変わっていく。要は、「移り気なお客さん」ばかりの業界ということだ。
「比較選択」が面倒であれば面倒なほど、企業にとって有利な業界である。すなわち、「教育」、「外食」、「不動産」、「建設」、「自動車」、「医療」、「業務ソフト」などは、効果を比較しにくく、比較のものさしが統一されていないため、「浮気が難しい」業界だ。
これらの業界は比較がしにくく、使ってみないとわからない。また、使ってみて悪かったとしても、スイッチコストがかかり、そう簡単に他社に移れない。
また、独占や寡占状態にある「交通機関」や、「通信やガス水道などのインフラ」企業は上の話に当てはまらない。規制などにある状態では比較対象が少なすぎるからだ。
これから新規事業をやろうとしている人には、「飽き」と「比較選択」の視点が特に重要ではないかと感じる。