就職活動が本格化している。新卒は様々な会社をまわって内定を勝ち取るべく動いているが、その苦労は相当のものだろう。それまでは範囲も決まっており、回答もある「入学試験」というものをクリアすればよかったところが、突然答えも基準もない、「就職」というハードルが現れるのであるから。
さて、就職活動は大抵の場合、入社したいと思う会社の「会社説明会」というものを経て「面接」に至り、面接をクリアすれば「内定」という運びになる。私が就職活動を行ったのは相当前だが、当時最も説明を聞いてもよくわからなかったのが「人事評価制度」であった。
どこの会社も説明会の中で「人事評価制度」の説明があるのだが、どれもあまりピンとこなかったイメージが有る。そこで、今回は新卒の方々に説明することを想定して、「人事評価制度の良し悪しを見分けるポイント」ということを書いてみる。いろいろな会社の評価制度を見てきた人間の戯言として読んでいただければ幸いである。
さて、まず基本的なところから抑えると、人事制度=人事評価制度ではない。人事評価制度は人事制度の一部である。あたりまえだが。
人事制度はその中に「採用」「配属」「評価」「賃金」「教育」など、様々な分野を含んでいる。この中でも最もナーバスな領域が「評価」と「賃金」である。
ちなみに「評価制度」と「賃金制度」は多くの場合、別々に設計されている。例えば、
「今期にどの程度頑張って成果をあげたのか」をある程度統一された尺度に従って、格付けするのが評価制度である。したがって、アウトプットはその人の「格付け」である。
e.g. 甲さんは評価A、乙さんは評価C など。
それと異なり、Aさんの給与、賞与をどうするか、というのが賃金制度であり、多くの場合アウトプットはAさんがいくら貰えるか、という情報である。
e.g. Aさんの月額の給与は◯◯円、手当は◯円、賞与は◯円
評価と賃金はつながっている時もあるし、つながっていない時もある。たとえば年功の賃金制度では「評価が高くても、給与はあまり上がらない」という事は十分に考えられる。この場合は「在籍がどれくらいだから、どの程度お金がもらえる」ということが決まっているだけである。
じゃあ評価は何に使うのか、というと、単なる表彰に使われたり、あるいは役職をつけることにつながったりと、使い道は様々である。
しかし、最近では多くの場合は評価が高いと、賃金の上昇も見込めるし、賞与も大きく出されることが多い。したがって、多くの場合議論の対象は「人事評価制度」となる。
さて、評価制度であるが、これは「ある基準にそって、その人を格付けすること」であるのは、すでに述べたとおりであるが、この「基準」というものは、大抵次のものの組み合わせである。
1.成果
最もポピュラーな評価項目、売上や単価、あるいは件数など、客観的数値で測定できるものが選択される事が多い。
2.能力
潜在的能力と、顕在化している能力(コンピテンシーと呼ばれたりする)の2つに分けられる。潜在的能力は上司などの評価者が主観で決定することが多かったが、最近では実際に仕事で役立つ能力を測定する、ということで「求められる行動や職務能力」と言った言葉でまとめられ、この記述された能力にどこまで適合しているかで、能力を図ろうとする制度が多い。
3.情意
ようは「やる気」である。「やる気」をどうやって測定するのか、という難しい話が残るが、多くの場合「会社の理念」や「職場の雰囲気」にどの程度マッチしているか、ということを測定する。殆どの場合は評価者の主観で最終決定されるが、会社によっては「べからず集(やってはいけない行動を集めたもの)」を作って、遅刻などの回数が評価に影響するように制度を作っている会社もある。
4.資格
読んで字のごとく。ただし、多くの会社では資格は評価ではなく、「手当」を持って報いるケースが多い。
5.年功
会社に在籍していた期間によって評価が決まる。最近では特に不人気な評価の基準であるが、定型的な業務を行っている会社では多くの時間在籍するほどスキルが上がる傾向があるため、年功は必ずしも不合理ではない。
基準を決めたら、これをどのように運用するか、ということが制度として必要である。その場合、「だれが評価するが」と、「いつ評価するか」、「評価尺度をどうするか」という議論が必要である。
さて、この情報をもって、「人事評価制度の良し悪し」をだいたい判定することが可能である。
まず、上の評価基準が偏りすぎている評価制度はあまり良くない。「成果のみ」であるとか、「能力のみ」であるとか、ある側面だけを取り上げる評価はどうしても歪みが出る。同じように、「評価者が一人」というのも良くない。できるだけ多くのひとが評価に関わることによって、評価の偏りを防ぐことができる。
しかし、制度の作り方云々よりもはるかに重要なのが、「経営者が評価したい人が、評価される仕組みになっているかどうか」である。
もっとストレートに言えば、「評価の基準がわかりやすく、具体的に明文化されていること」である。社長が独りですべての人を評価する、という状況でもない限り、上の基準が明文化されていない状態は良いとは言いがたい。
もちろん、単に明文化されていれば良いというものではない。
重要なのは3項目である。何が成果か?どのような行動が評価されるか?どのような能力を身に付けることが望まれているか?これが従業員の隅々にとどいていなければ、評価制度は機能しない。
ただ、明文化には恐ろしく手間がかかる。また、これは会社の事業とともに更新しつづけなければならず、常にメンテナンスをすることが望まれる。
この手間をかけず、「教科書」の制度をそのまま丸写しし、点数の付け方は書いてあるが、中身は誰も知らない人事制度は数多くある。これは、会社が「人材のあり方」に関して統一された見解がないことが原因であり、社員から「なにが評価されるのか分からない」と揶揄される元凶でもある。これでは、「評価制度はあるが、その実は死んでいる」と言ってもよい。
説明会や人事制度の説明の時に、ぜひ
「 何が成果か?どのような行動が評価されるか?どのような能力を身に付けることが望まれているか?」
がはっきりと理解できるかどうか、確かめてみて欲しい。理解できれば、それは良い制度、理解できないなら、悪い制度だ。