新人研修において、参加者からよく聞かれることの一つに、「どうしたら仕事がうまくいくのか?」がある。企業において入社最初の一年は非常に重要だ。最初の一年の働きぶり如何で、社内での印象が固定されてしまうことだってある。人はそれほど他人に注意を払わないので、一度固定化してしまったイメージを覆すのは非常に難しい。
だから、とにかく「スタートダッシュしたい」という新人が多いのもうなずける。
よくある回答としては「がむしゃらに頑張れ」というものだ。だが、実際にこれは良いアドバイスとはいえない。
新人もバカではない。普通の人は頑張りたいのである。だから、「がむしゃら」と言われても「当たり前です」と思うだけだ。
では、「目の前の仕事に対して成果を上げるように頑張れ」というアドバイスはどうだろう。
さきほどの「がむしゃら」よりは良い。成果をあげなければ評価をされないのはあたりまえだからだ。しかし、新人が真に聞きたいのは、「どうやったら他の人より成果を上げることができるか」の具体論であって、精神論ではない。
だから、「目の前の~」に対しても、「そうですね」以上の事は思わないだろう。
だから、そういったやる気のある新人に対しては別の処方箋が必要だ。
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一昔前、めっぽう上司を使うことが上手い部下がいた。
彼は「自分のできること」と、「上司がやったほうが上手いこと」を完全に切り分けて考えていた。
おそらく彼の中で自分の得意分野は「アポイントを取る」ことだったのだろう。私に実にいろいろなアポイントを持ってきた。協業の提案から、商品の売り込みから、個人的な相談まで、様々なアポイントを持ってきた。
彼は「アポイントの件数だけは誰にも負けたくない」と言って憚らなかった。
また、こういう部下もいた。次々に私のところへ「商品の改善提案」を持ち込むのだ。彼女はさして営業は上手くなかったが、改善提案には光るものがあった。私に向かって、「社長にこれを言っておいてください」と頼むのだ。
「もっとお客さんが喜ぶと思いますよ」という一言をつけて。
私は彼らに「使われて」いた。パシリに近いイメージだったかもしれない。それでも彼らと一緒に仕事をすることは非常に楽しかった。
もちろんたまには、どうしようもない無駄なアポイントもあった、箸にも棒にもかからない改善提案もあった。しかし、彼らは私に常に新しい視点を持たせてくれた。
そして、彼らは私を踏み台にして、実績を作った。
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ピーター・ドラッカーは、「組織において成果を上げるには、上司をマネジメントせよ、上司の強みを活かせ」と述べる。
”成果を上げるためには、上司の強みを生かさなければならない。企業、政府機関、その他あらゆる組織において、「上司にどう対処するか」で悩まないものはいない。答えは簡単である。
成果を上げるものならば、皆知っていることである。上司の強みを活かすことである
これは世渡りの常識である。現実は企業ドラマとは違う。部下が無能な上司を倒し、乗り越えて地位を得るなどということは起こらない。上司が昇進できなければ、部下はその上司の後ろで立ち往生するだけである。”
これは金言だ。上司が出世しなければ、自分の出世もない。「上司の強みを活かす、部下自身が成果を上げる、自分の信じることの実現が可能になる」は、セットなのだ。
ドラッカーはこう続ける。
”もちろんへつらいによって、上司の強みを活かすことはできない。なすべきことから考え、それを上司に分かる形で提案しなければならない。
上司も人である。人であれば、強みとともに弱みを持つ。しかし上司の強みを強調し、上司が得意なことを行えるようにすることによってのみ、部下たるものも成果をあげられるようになる。”
上司をマネジメントする、ということは奇妙に聞こえるかもしれないが、実は当たり前のことばかりである。
”「上司は何がよく出来るか」「何をよくやったか」「強みを活かすためには、何を知らなければならないか」「成果を上げるためには、私から何を得なければならないか」を考える必要がある。
上司が得意でないことをあまり心配してはならない。”
マネジメントは上司のためだけのものではない。知識労働者として働くものであればだれでも身につける必要のある教養なのだ。