社会において、「信頼される」ということはもっとも重要だ。「信頼」があれば、多少リスクのある事にもチャレンジできるし、権限や裁量も大きくなる。
だから、「信頼こそが一番重要」と語る人は多い。特に仕事においてはそうだ。
だが、「信頼」を得ることは非常に難しい。
かの有名な自己啓発書、「7つの習慣」には、「信頼とは預金残高のようなもの」と書かれているが、まさに「無くすのはカンタン、貯めるのは相当の苦労」と言える。
では、「信頼の預金残高」を高めるのは何か。「7つの習慣」によればそれは言葉ではなく、行動であるという。
「行動で作った問題を、言葉でごまかすことは出来ない」
という言葉が、的を射ている。
が、ここまでは「よくある話」である。
議論はここからだ。
では、特に「仕事」において、最も「信頼」に係る行動はなんだろうか。
昔、私があるシステム開発プロジェクトに携わっていた時の話だ。
あるプロジェクトリーダーがいた。かれは10人ほどのチームを率いていたが、愛想がなく、部下から好かれている、というわけではなかった。彼を鈴木さんと呼ぶ。
しかし、私が携わっていた同規模の別プロジェクトのリーダーはそれと対照的に、大変人好きのする、明るく、コミュニケーション能力の高い人物で、部下の受けも良かった。彼は佐藤さんと呼ぼう。
だから、ある日の飲み会で、佐藤さんの部下が話した事には驚いた。
「なあ、次の仕事、どのプロジェクトに配属されたい?」
彼らは酔っていたためか、多少饒舌になっており、普段は口にしないようなことを口にしていた。
「え、オマエはどうなのよ」
「いやいや、佐藤さんも悪くないんだけど、やっぱり鈴木さんのところがいいよね。あの人愛想ないけど。」
「あ、オマエもそうなの?」
「多分この会社の中で、鈴木さんのところが一番働きやすいって話だよ。」
鈴木さんを知る人達は、鈴木さんを褒め称える。
私は不思議に思い、聞いてみた。
「すいません、鈴木さんって、普段あまり評判が良くないような気がしますが、そうではないんですか?」
すると彼らは口々に言った。
「いや、働いて楽しいか、と言われれば鈴木さんは別に楽しい感じではないですよ。でもね。」
「でも?」
「あの人、言ったことは必ずやる人だから。締め切りギリギリとか、遅れて言い訳っていうのは全く無いですし。」
言行一致。
そういう言葉が脳裏に浮かんだ。そういえば、新人の頃研修で「社会人として、約束は守る。」そんなことを教わった気がする。
しかし、あまりにも締め切りに遅れたり、約束を破ったり、言ったことをやらない人が多く、そんなことはすっかり忘れていた。
私は言った。「やっぱり、口と行動が一致している人が上司であるべき、ということですかね。」
彼らは「そうだ」というように頷き、「結局、楽しい人よりも、信頼できる人について行くんですよ。」と口々に言った。