前職では、「今やれることは全部やる」という考え方で仕事をしていた。
例えば、コンサルティングや研修の売上を増やすため、顧客開拓でやれることを挙げていくと、次のようなリストが出来る。
・FAXDMを送る
・郵送DMを送る
・メディアに記事を投稿する
・本を書く
・既存の顧客から紹介を受ける
・既存の顧客にクロスセルを行う
・テレアポを行う
・飛び込み営業を行う
ここに挙げたものはもちろんその一部であるが、一つ一つをきちんとやりきることは非常に大変だった。
だが、会社が設定する売上・利益の目標値は大変厳しいものであったため、一つの施策をやるだけでは見込み客の数としてとても足りない。
そこでどうするか。
私は、一つ一つの施策の「量」を増やすことで、売上目標を達成しようとした。
具体例を挙げよう。
全体で10社の引き合いがほしい。しかし、今のままでは8社しか引き合いの見込みが無い。
そこで、FAXDMの数を増やす。
例えば、FAXDMの反応率が0.3%だとする。FAXDMの引き合い数の目標がひと月あたり3件だとすると、あと2社引き合いを増やすために、1か月に約700件のFAXDMを余分に送る、という具合だ。
そして、郵送DMや、メディアの記事、クロスセルから飛び込みに至るまで、全ての数値目標をクリアするべく活動する。
だが、FAXDMなどは比較的数を増やすことがカンタンだが、テレアポや飛び込み、紹介などはそうはいかない。しかし、売上目標は絶対だ。だから、行動量を増やす。限界まで。これが、前職で行っていた働き方だ。
従って、成果は次のような式で定義される。
成果=行動量×行動の成功率
これを読んで「当たり前だ」と思っただろうか。
しかし、私は最近この考え方に疑問を持っている。なぜならば、この考え方には「時間」と「改善」という概念が抜けているからだ。
私は成功している会社をまわり、行動量がどの程度成果につながるのかを観察した。
驚いたことに、「行動量」は、成果の大きさを決めるひとつの要因ではあるが、決定的な要因ではなかったからだ。
むしろ決定的な要因は、「時間」と、「改善」の概念だった。
成功している会社においては、成果は次のような式であらわされる。
ここ1ヶ月の成果=ここ1ヶ月の行動量×(継続した期間×単位期間あたりの改善率×行動の成功率)
何が違うのか?と思う方もいるだろう。
前の考え方では、「行動量」が重要だった。なにしろ様々な作戦を同時に展開している。振り返りもままならないし、改善する間もなく、DMのリストを使いきってしまったり、回れる顧客のリストを使いきってしまったりする。
だから、作戦は都度、単発で行われるのだ。だから、行動の成功率は1年を通じてほとんど変化がない。
しかし、成功している会社では考え方が異なる。
大事なのは、「継続する事」と、「得られたデータを元に改善すること」の2つである。だから、一気にDMやテレアポのリストを使いきってしまうようなことも無い。少しずつ試しながら、ある程度の時間をかけて実験を繰り返し、最終的には少しの行動で大きな成果が得られるようにする。
したがって、(継続した期間×単位期間あたりの改善率×行動の成功率)が、決定的な意味を持つようになってくる。
しかし、数値目標のある中で「少しずつ改善しながら実行する」ことは勇気が必要だ。ともすれば、手持ちの名簿や顧客のツテを一気に使ってしまいたくなる。
だが、そこをグッととこらえよう。短期間で一気に行うよりも、ある程度の時間をかけて改善しながら行うほうが、最終的なアウトプットは大きくなる。
なにせ、1ヶ月毎に10%の改善を行っただけで、複利効果で1年後には成功率は約3倍となるからだ。
「あえて仕事量を減らす勇気について」と言うのは、「少しずつ、継続することを前提として仕事をするため、一気に多くのことをやろうとしない勇気を持つ」ということだ。