「ロジカルシンキング」がビジネスパーソンの中で流行って暫く経つ。その影響もあって、「ロジカルであること」を人に求める方が非常に増えたように思う。
だが、物事には必ず正の部分と負の部分、両方が存在する。
一つのエピソードがある。
ある会社で「webでのマーケティング」について話題が持ち上がったときのことだ。ある部下が上司である課長に提案した。
「Facebookで、ウチの社員の紹介をひとりひとりやれば、お客さんに親近感を感じてもらえるのではないか、是非、試してみたい」
と熱く語り、資料を配った。よく見ると彼の持ってきた案はなかなか突拍子もないものであった。
だが、課長は答えた。
「Facebookでなければいけない理由、ウチの社員の紹介をしなければならない理由を説明せよ」
部下は言った。
「Facebookでなければならない理由は特にないのですが、ユーザー数が多いのと、親近感は商売に良い影響があると普通に考えました」
というと、課長は「ロジカルではない。エビデンスもない」という理由でその案を却下した。
部下が部屋を去り、あとには部長と課長、そして私が残った。
部長は課長に「ちょっといいかな」という。
部長は課長にゆっくりと話した。
「なぜ、あの提案を却下したのかね?」
「論理が通っていないからです。データも、エビデンスもない。彼のいうことには根拠がありません。」
部長は言った。
「しかし、彼には熱意があっただろう?企画も面白かった。」
「熱意ですか?大事ですが、論理的な裏付けがなければ、お金をかけるわけにはいきません。」
部長はだまっていたが、やがて口を開いた。
「いいかね、施策はロジカルに生み出されたものでなければいけない、と言うのは大きな誤りだ。多くの場合、論理はアイデアを生み出さない。飛躍しない。当然の帰結を導くのみなのだよ。無難な、論理的にだれでも導ける回答など、私は欲していない。」
「しかし……」
「どうやらうちにも大企業病がはびこってきているようだな。大事なのは社内を説得することではなかろう。あの案は明らかにインパクトが有る。それがわからない君でもないだろう。」
「……」
「いいかね、人間は感情で動く。だからサービスを考えるときには感情のほうが大事なこともたくさんある。大体において多くの人は考えてサービスを選んでいるわけではない。直感的に「なんとなくダメ」「なんとなく良い」が重要なのだ。
その感覚を大事にしない人間は、「センスが貧しい」と私は思う」
「しかし部長…」
「とはいえ、君の視点は会社には必要だ。彼らには是非チャレンジしてもらいたい。その代わり、うまく行かなかった時の検証と分析はロジカルに行わなければならない。再発を防ぐためだ。それを君にお願いしたい」
「わかりました。申し訳ありません。」
「究極の論理」である数学ですら、歴史上重要な命題の証明※1には「なんとなく似ている」「これを見たことがある」「もしかしたら」といった直感があった。
また、世界最古の木造建築群である法隆寺、宮大工の棟梁である西岡常一氏は、その著書「木に学べ」※2の中で
「人間はえらいものでっせ。カンでわかるんですな。コンピュータでわからんで、カンピューターならわかるんですからな」
と述べる。
論理やエビデンスを重視するのも良いが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ということなのだろうか。
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